UBSセキュリティーズ事件(東京地判平21・11・4) 1億円超賞与の不支給、期待権侵害と証券マン提訴 広範な裁量範囲の逸脱なし
債券トレーダーが、例年1億円前後支払われていた賞与を不支給とされ期待権侵害による損害賠償を請求。東京地裁は、賞与は将来性や部下の管理能力を考慮して支給しており、一部査定を実施しなかったことで期待権侵害とは認めないと判示。支給の裁量は相当広範で、3億円の損失を出し評価は最低と会社の期待に応えておらず、裁量権の逸脱濫用に当たらないとした。
将来性や能力考慮 損失出し最低評価
筆者:弁護士 緒方 彰人(経営法曹会議)
事案の概要
Y社(被告)は、有価証券の売買、売買の媒介、取次等を目的とする株式会社である。
X(原告)は、平成8年6月21日、Y社の前身であるUBS証券との間で雇用契約を締結し、年間基本給与1862万2000円(平成19年当時は2100万円)のほか、インセンティブボーナスがあった。
雇用契約書上、インセンティブボーナスは「事業の業績一般を考慮し、また個人の業績が経営陣の期待に完全に応えるものであることを条件として、会社の完全な裁量により支給の有無が決定される」とされ、Y社の就業規則等には賞与の支給基準や計算方法を具体的に定めたものはなく、Xも賞与額はY社が決定するものであり、業績が評価されなければ、支給されない場合もあることを認識していた。
Xは平成14~18年度まで、6000万~1億8999万円の賞与を受けていたが、同19年度は、賞与が支給されなかった。
なおY社は、同19年度について、Xに対し、賞与支給の決定の参考にするためのパフォーマンス・セグメンテーション評価(相対評価、以下「PS評価」)の考慮要素となる絶対評価(以下「PMM評価」)等を実施しなかった。
そこでXが、Y社に対し、主位的に未払い賞与の支払いを、予備的に賞与支給に対する期待権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償を求めた。…
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