立正佼成会事件(東京高判平20・10・22) うつ病で医師自殺、病院の安全配慮義務違反か 周囲へ相談なく予見不可能
小児科医がうつ病を発症・増悪し自殺したのは、病院が適切な労務管理を怠ったのが原因として遺族が損害賠償を請求したが、一審で棄却されたため控訴した。東京高裁は、部長代行による残業時間等から発症の因果関係を肯定したが、周囲への相談なども行っていないことから、精神障害のおそれを具体的客観的に予見することはできず、安全配慮義務違反ではないとした。
発症を把握できず 業務と関連あるが
筆者:弁護士 牛嶋 勉(経営法曹会議)
事案の概要
小児科医であった亡Fの相続人らが、亡Fは病院における業務上の過重な肉体的心理的負荷によってうつ病を発症し、これを増悪させたことにより自殺したのであって、病院には亡Fの心身の健康状態に十分配慮し、適切な業務内容の調整や健康状態に対する適切な措置をとるべき安全配慮義務ないし注意義務を怠った過失があると主張して、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償金等の支払いを求めたものである。
原審(東京地判平19・3・29)は、亡Fは遅くとも死亡する数カ月前にうつ病に罹患し、これが原因で自殺したものといえるが、亡Fのうつ病の発症ないし増悪について、病院における業務との間に相当因果関係を認めることができず、かつ、仮に業務が過重であったとみる余地があるとしても、病院に認識可能性がなかったから、債務不履行または不法行為に基づく責任はないと判断して、請求をいずれも棄却したため、控訴人らが控訴したものである。
判決のポイント
亡Fは、主として平成11年3月以降の過重な勤務により、加えて、常勤医や日当直担当医の減少という問題解決に腐心せざるを得なかったことにより、大きな心理的負荷を受け、それらを原因とした睡眠障害ないし睡眠不足の増悪とも相俟って、うつ病を発症したというべきであり、亡Fの業務の遂行とうつ病発症との間には条件関係が認められる。そして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは周知のところであり、また、亡Fの業務外の要因についての判断は…
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