バイエル・ランクセス(退職年金)事件(東京地判平20・5・20) 退職年金廃止し一時金に、受給者へ効力及ぶか 意見一切聴かず合理性欠く
外資系医薬品メーカーが、終身支払う退職年金を一時金に変更したことについて、年金受給権者がその支払い義務の確認を求めた。東京地裁は、代償措置は十分だが会社の経営状況が悪いとは認められず、かつ受給者の意見を聴取していないことから制度廃止を合理的と認めることは困難で、変更に同意せず異議を唱えた1人のために年金制度を存続する義務を負うと判示した。
経営危機ではない 同意者大多数だが
筆者:弁護士 岡芹 健夫(経営法曹会議)
事案の概要
Y1はヘルスケア製品、農業関連製品等の輸入、製造および輸出を含む販売等の事業を営む会社である。Xは昭和44年にY1に入社し、平成14年7月31日に退職した元従業員である。
Xは退職時、Y1の就業規則に則り、退職一時金ではなく終身年金の受領を選択し、退職日の翌日より月額約23万円の年金を受領していた。Y1では、その社内に税制適格年金制度を有していた。
年金制度は、会社が資産を金融機関に積み立て、当該金融機関が会社に代わって当該資産を運用するものであるが、運用に必要な資産を確保するには年5.5%以上の運用益を要し、想定の運用益に不足する分はY1がその差額を補填することとなっていた。
Y1は、平成15年7月、化学品部門を分離独立させ、A社を設立したうえ、他のY1の業務の一部を統合させ、Y2を設立した。この分離独立に伴い、年金受給権者等は、それぞれ退職時に所属していた事業部門により、分離独立した会社が年金支給義務者となる措置がとられた(Xは、退職時に化学品部門に所属していたことから、年金支給義務者はY2となった)。
Y1とY2を含む会社グループは、上記年金制度における予定運用利率と実勢運用利回りとの乖離が大きくなった状況に鑑み、制度の維持は困難として、まず、平成15年1月、現役従業員に対して確定拠出型年金に変更した。次いで、平成17年3月、既退職者である年金受給権者に対し、年金制度を廃止して一定基準で計算した一時金を支給する旨を通知し、同年6月に廃止した。…
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