初雁交通事件(さいたま地裁川越支判平20・10・23) 多数労組と賃金減額合意、少数組合へ効力は? 月4%までで不利益小さい
所属する少数労組の反対にもかかわらず賃金を減額されたため、タクシー会社の元乗務員ら5人が新旧賃金体系の差額支払いを求めた。さいたま地裁川越支部は、残業手当の支給方法や36協定未締結の問題解消とともに賃金体系を見直す必要性が高く、月1%弱から4%の減少に抑えていること等から、代償措置等がないことを考慮しても、合理的と評価して請求を斥けた。
残業前提に見直し 代償措置なくても
筆者:弁護士 渡部 邦昭(経営法曹会議)
事案の概要
初雁交通株式会社は、一般乗用旅客自動車運送事業等を目的とする会社である。本件は、会社が多数組合の新初雁労働組合(新組合)の同意を得たうえで、就業規則を変更して新賃金体系を実施したところ、少数組合の初雁交通労働組合(既存組合)の組合員で、会社従業員のAないしD(以下、Aら)が就業規則の不利益変更に当たり無効として、新・旧賃金体系による賃金の差額金の支払いを求めた。
会社は既存組合および新組合との間で、それぞれ毎年賃金体系の協定書を締結し支給内容を決めてきたが、平成5年以降、既存組合の内部分裂等により協定書を締結することが不可能となり、同12年まで新組合と毎年賃金協定を締結し、他の乗務員にも適用してきた。
しかし同13年以降、会社は、36協定未届で時間外労働を行わせたこと等について労基署から是正勧告を受け、またAらから有給休暇手当に関する訴訟を提起され、新組合とも賃金協定を締結することができない状態で、時間外の乗務が行えないことから同12年6月から翌年5月までは800万円、同13年は1100万円、同14年は3100万円の赤字となっていた。
会社は、同15年11月に新しい賃金規定を含む就業規則を完成させ、新組合に労働条件改定の説明・交渉を行い、同意の意向を得たうえ12月25日に新賃金体系の協定書と36協定を締結し、労基署に届け出た。…
この記事の全文は、労働新聞の定期購読者様のみご覧いただけます。
▶定期購読のご案内はこちら