瀧本事件(大阪地判平20・8・22) PCで機密情報入手の嫌疑、退職強要される? 懲戒解雇への言及 可能性の示唆に留まる
パソコンで機密情報を不正に入手したことなどから、退職届の提出を迫られた元従業員が退職の意思表示を取り消し、地位の確認、賃金等の支払いを求めた。大阪地裁は、不正の嫌疑から懲戒解雇を示唆したことは、退職金不支給の危険を感じさせ退職の意思決定に影響を及ぼしたが、社会通念を逸脱した強迫が加えられた事実を認めることはできないと判示し、請求を棄却した。
強迫の事実はない 社会通念逸脱せず
筆者:弁護士 緒方 彰人(経営法曹会議)
事案の概要
被告は、学生服の製造・販売を主たる業とする株式会社であり、原告は、平成18年7月当時、被告の本社4階の見本室にて勤務していた。
C取締役とD総務部長代理が同年7月8日、4階見本室の利用状況を確認したところ、パソコン内に「TANAKA」名のフォルダがあり、総務部以外には存在しない人事総務関係のデータが多数存在していたほか、総務関係や財務関係のデータが入ったフロッピーディスク(FD)を発見した。4階見本室に常駐勤務していたのは原告だけで、原告はパソコンを事実上管理する担当者と目されていた。
C取締役らは7月12日および7月13日に、原告から事情聴取したところ、原告は当初「TANAKA」名のフォルダの存在やFDの存在を否定していたが、事情聴取が進むうち、フォルダ内に人事総務関係のデータがあることを知っていたこと、FD上に日付を記載したのは原告であること、FDは、退職した某人からもらったものである等と供述を変遷させたほか、原告から人事総務関係のデータをみせられた従業員がいることやパソコン内の人事総務データの最終更新時に原告が4階見本室にいたこと等が判明した。
そこで7月20日、C取締役およびD総務部長代理が原告と面談を行ったところ、翌21日、原告は退職届を提出し、被告はこれを承認した。その後、原告は、退職の意思表示は①7月20日の面談でC取締役らから退職届を提出しないと懲戒解雇となって退職金を得られなくなると脅され、パニック状態で行ったもので、…
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