モルガン・スタンレー証券事件(東京地判平20・10・28) 部下と集団移籍し懲戒解雇の部長が退職金請求 処分相当の違反はみられず
外資系証券会社の営業部長が、部下の7人全員とともに競合他社へ移籍したことを理由に懲戒解雇されたため、不支給となった退職金等を請求した。東京地裁は、予告なく集団移籍した点は悪質だが、組織改変を機に転職動機が全員に生じたものであり、顧客名等は非開示で会社に実質的損害も発生していないこと等を考慮し、解雇は権利濫用で無効として退職金の支払いを命じた。
組織改変が要因に 実質的損害もない
筆者:弁護士 牛嶋 勉(経営法曹会議)
事案の概要
本件は、XがY社に対し、退職手当金等合計約1億9036万円等の支払いを求めた事案。
Y社は、有価証券の売買等を目的とする外国会社(モルガン・スタンレー・ジャパン・リミテッド)から平成18年3月に同社の営業および権利義務の一切を譲り受けた会社である。会社の退職金には全社員に対し支給する退職手当金と、プロフェッショナル社員の一部に支給するSRP(追加退職金)がある。
Xは、平成11年に入社し、国債、地方債、事業債などを売買する債権営業本部金利商品営業部にプロフェッショナル社員として配属され、平成16年2月以降は、同部の部長として日本国債のセールスチームを統括する地位に就いた。
平成16年1月、会社では組織体制が変更され、日本国債取引チームの営業活動では従前のような大量引受という方法をとることが難しくなり、Xはチームの成績を伸ばせず、また自身の総報酬が減少するなどした。このころXは、移籍の勧誘を受け、セールスチーム全員(Xを含め8人)での移籍を模索し、同16年秋頃、Z証券にチームで移籍したい旨を告げ、チーム全員に移籍を勧誘し、同人らもZ証券への移籍を決めた。…
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