昭和観光事件(大阪地判平21・1・15) 残業代支払命令を無視、会社役員に賠償請求? 法的義務遵守の任務を懈怠
裁判で定額の職務手当は割増賃金に相当しないとされたが、会社はその支払い命令を履行せず、ホテル従業員8人が代表取締役や監査役など4人に対し相当額の損害賠償を請求した。大阪地裁は、役員は善管注意義務として会社に法を遵守させ、割増賃金を支払わせる義務を負っており、会社に支払いを履行させなかったのは重過失に当たるとして、連帯して賠償を命じた。
重過失に相当する 監査役も連帯責任
筆者:弁護士 緒方 彰人(経営法曹会議)
事案の概要
原告らは、S社の従業員であり、S社が経営していたホテルにおいて業務に従事していた。
被告らのうち甲野はS社の代表取締役で、その余はS社の取締役や監査役であった。原告らは、別件訴訟でS社に対し、平成14年3月支給分から同16年3月支給分までの割増賃金等の支払いを求め、その支払いを命ずる判決(別訴判決=大阪地判平18・10・6)がなされた。
別件訴訟では、S社の給与規定に定める職務手当が、時間外・深夜労働の対価としての性格を有するか否かが争点の1つだったが、別訴判決は①S社は原告らの業務内容や勤務時間がそれぞれ異なるにもかかわらず、一律毎月3万円の職務手当を支給していること、②時間外手当の金額が職務手当の金額内に止まる場合であっても、時間外手当を支給してきたこと、③給与規定の定めの趣旨(職務手当が時間外労働等に対する割増賃金の定額払いとしての性格を有すること)が本件ホテルで周知されていなかったことを理由に、職務手当は時間外労働等の対価ではないと判断した。
このような別訴判決にもかかわらず、S社は本件割増賃金等を支払わなかったため、原告らは、S社の役員らに対し、旧商法266条の3および280条1項に基づき、本件割増賃金等相当額の損害賠償を求めた。…
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