国・中央労基署長(興国鋼索)事件(大阪地判平19・6・6) 海外出向中に副社長が過労死、労災保険を請求 月80時間もの超勤で発症へ
米国子会社へ出向中、くも膜下出血を発症し死亡した副社長の妻が労災の遺族補償給付等を請求したが、不支給となったため処分の取消しを求めた。大阪地裁は、労働者の定着率悪化で生産力が低下した後に、責任者として月平均80時間前後の時間外労働に加えて、恒常的な土日・深夜帯の勤務に従事したことが、脳動脈瘤を悪化させ発症に至らせる過重負荷になったと認めた。
労務面の負担重く 不支給処分を覆す
筆者:弁護士 岡芹 健夫(経営法曹会議)
事案の概要
Xの夫Aは昭和53年に訴外B社に入社し業務に従事していたが、昭和62年、B社の100%米国子会社であるC社に、生産・技術担当のアシスタントマネジャーとして出向し、平成3年にはアドバイザー、平成7年には生産・技術部門担当の副社長に任命された。Aの下にはアメリカ人マネジャーが2人、その下にスーパーバイザーと現場作業員約70人がいた。
AはC社における唯一の日本人技術者として、技術・生産に関する業務全般を指揮・監督していたが、デスクワークの他、工場での現業等、多岐に亘る業務を担当していた。
平成2年、B社はC社とは別の米国子会社としてD社を設立した。B社ではD社が製造するタイヤ用スティールコードを収益改善の重点商品として位置付け、多くの資本と人員が投入された。他方、D社の設立に先立つ平成元年11月ころ、C社では生産能力を倍増させる設備投資を行っており、D社が本格生産に入ったのは平成5年のことであったから、それまでの間、C社は少ない投資と人員で成果を挙げることが求められる状態にあった。…
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