渋谷労基署長事件(東京地判平21・5・20) 部下の中傷ビラでうつ病自殺、労災は不支給か 心理的負荷は総合で「強」に ★
フードサービス会社の料理長がうつ病で自殺したのは、部下の中傷ビラ配布等が原因として、発症まで6カ月以上あること等を理由とする労災不支給処分の取消訴訟を提起した。東京地裁は、会社から糾問的な事情聴取を受けたことや左遷同然の異動について、精神障害の判断指針における心理的負荷強度を総合評価で「強」と修正し、うつ病発症と自殺の因果関係を認めた。
糾問的な事情聴取 左遷も同然の異動
筆者:弁護士 石井 妙子(経営法曹会議)
事案の概要
Dは、A社の給食事業部門に配属され、平成7年以降、給食事業料理長として勤務していた。平成9年2月、処遇に不満を持つDの部下Fは、A社の発注先であるB百貨店の労働組合に、A社職員を誹謗中傷する(Dについても不正やセクハラがあるとする)ビラを持ち込んだ。その結果、A社による調査後、職員の一部やFに対する懲戒処分がなされた(Dは懲戒処分されなかったものの、始末書を提出し、兼務していたB社の店員食堂の店長職を解かれた)。
その翌年の3月、Fは契約更新にあたり、再度、中傷ビラをA社上層部に送付したり、Dの家族に危害を加えるかのような言動をとった。A社では、Dに対して再度、事情聴取し、4月16日付で、Dをレストラン事業部へ配置転換し、Dはその直後に自殺した。
Dの子であるXらはDの自殺は業務に起因するものとして、渋谷労基署長に対し労災の遺族補償給付支給を請求したが不支給処分を受け、審査請求、再審査請求とも棄却されたことから、処分取消しを求め提訴した。…
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