宣伝会議事件(東京地判平17・1・28) 入社前研修不参加による内定取消しに賠償請求 学業への支障は正当な理由
採用内定した大学院生が論文審査準備を理由に入社前研修に参加しないため、試用期間延長か中途採用再受験かの選択を求めたところ損害賠償を請求されたケース。東京地裁は学業への支障は研修不参加の正当理由で、使用者は信義則上受講を免除すべき義務を負うとし、会社主張を斥け損害賠償を命じた。
使用者に免除義務 出席合意あっても
筆者:弁護士 渡部 邦昭(経営法曹会議)
事案の概要
Aは東京大学大学院工学系研究科博士課程に在籍し、B教授の指導の下で環境科学の研究に努めていたが、B教授から雑誌の出版および広告宣伝の教育指導等を業とする会社(㈱宣伝会議)への就職を勧められ、会社代表者と面接、平成15年4月1日から採用するとの内定通知書を受け、Aは入社承諾書、誓約書を差し入れた(本件内定)。
Aは会社の人事担当者Cから試用期間3カ月、10月から2週間に1回、2、3時間の研修に参加しなければならないことなどの説明を受け、研究に支障はないと判断しこれに同意、内定者懇親会(2回)、入社前研修会(4回)にいずれも参加した。
入社前研修では内定者にレポート提出を指示し、その消化のために1、2日を要する分量だったため、同年秋頃から論文審査の準備に入っていたAは、研修参加と課題消化が負担になっていることをB教授に訴え、B教授は会社代表者にメールで研修免除を要請し、同代表者は「メールの内容了解」と返信した。そのため、Aはその後の7回の入社前研修に参加しなかった。
しかし入社直前研修(3月26~29日)に際し、Cから「不参加なら入社を取り止め、中途採用試験を再度受験してもらう」と告げられたAは同研修に参加したが、3月28日の研修終了後、Cから研修の遅れを理由に試用期間を6カ月に延長するか、中途採用試験を受け直すかいずれかを選択するよう求められた。
AはB教授と相談し同日午後8時頃、Cに電話で4月1日に入社するが試用期間延長は認めない、中途採用になるのであれば再面接を行わずに採用するよう回答した。Cは試用期間延長か中途採用試験の再受験を選択するよう再三要求したが、Aは拒否し続けた。
Aは、翌29日午前9時頃、会社に電話を掛け、Cから内定を取り消されたため同日の研修に参加しないが、それでよいかと確認した。応対に出たDは、内定を取り消されたのではなく、Aが採用を辞退したと会社では認識していると回答した。
Aは会社から本件内定を違法に取り消されたとして会社に対し、債務不履行に基づき逸失利益、慰謝料等の損害賠償を請求して提訴した。これに対し、会社は本件内定を取り消した事実はなく内定辞退である、仮に本件内定の取消しであったとしても、Aは入社前研修義務を果たしておらず、本件内定取消しは適法である、として応訴した。…
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