アテスト(ニコン熊谷製作所)事件(東京地判平17・3・31) 自殺した業請労働者の遺族が発注先に賠償請求 業務過重による鬱病が原因
業務請負会社の従業員が自殺したため遺族が勤務先と発注先の両社に損害賠償を求めた事案で、東京地裁は発注先が業務指示・管理していたとし、自殺の原因は業務過重によるうつ病と認め、健康状態悪化の予見可能性も肯定し、安全配慮義務違反に基づく責任を負うと判示、損害賠償額は7割に減額した。
予見可能性あった 7割の限度で認容
筆者:弁護士 牛嶋 勉(経営法曹会議)
事案の概要
Aは、業務請負を業とする被告会社Y1の従業員であり、精密機械等の製造および販売を主たる業とする被告会社Y2の熊谷製作所品質保証課で作業に従事していたが、自殺により死亡し、Aの母が原告となり、亡Aの自殺はその勤務における過重な労働などによる肉体的および精神的負担のためにうつ病に罹患したことが原因であるとして、被告らに対し、安全配慮義務違反ないし不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。
本判決の事実認定によれば以下のとおりである。亡Aは、大学の電気工学科を4年生の秋に退学し、アメリカ留学への費用を貯めるため、平成9年10月Y1に入社し、同日よりY2に配属され、クリーンルーム内での社内検査に従事した。当初通常勤務であったが、夜勤が加わり、10年2月以降は休日勤務も行うようになった。夜勤が始まった頃から、亡Aは、原告に対し昼間の入眠障害、胃腸の不調を訴えるようになった。休日勤務が始まってからは下痢や吐き気も訴えていた。10年5月頃は、Y2におけるリストラの噂をするとともに、食べ物の味がしない旨訴えていた。亡Aは10年に、時間外・休日労働を含む出張に3回行き、うち2回は海外出張であった。翌11年1月14日から、亡Aは、連続15日間を含む計19日のソフト検査実習に従事したが、その際、実習の指導員であったY2社員4人がいずれも出勤しなかった日、指導員4人がAより先に退社した日が、それぞれ3日間あった。その後、亡Aは、原告に、嗅覚味覚の障害、簡単な理科の問題が解けなくなったなどと訴えた。11年2月23日、亡Aは、Y1に対し、退職を申し出たが、即答は得られなかった。亡Aは、2月26日から無断欠勤し、3月10日居室で死亡しているのが発見された。自室のホワイトボードには、「無駄な時間をすごした」と記載されていた。
判決のポイント
被告ニコンの本件製作所において勤務する外部からの就労者は…
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