未払賃金等請求事件(最一小判平31・4・25) 労使合意で未払賃金「放棄」、退職者へ効力は? 賃金債権消滅の判断を覆す
経営状況から賃金の支払いを2割猶予する労働協約を3年にわたり締結後、退職した組合員から差額を求められた。訴訟提起後に賃金債権を放棄する労使合意がなされていた。債権は消滅するとした原審に対し最高裁は、労組が本人を代理して合意したなどの事情はうかがわれず、債権放棄の効力は及ばないと判断。発生した賃金請求権を事後の協約で不利益に猶予・変更できないとした。
本人代理か不明で 協約効力遡及せず
筆者:弁護士 中町 誠(経営法曹会議)
事案の概要
本件は、被上告人に雇用されていた上告人が、被上告人に対し、労働協約により減額して支払うものとされていた賃金につき、当該減額分の賃金およびこれに対する遅延損害金の支払等を求める事案の上告審である(原審は請求を棄却)。
具体的には、被上告人は、経営状態が悪化していたことから、労働組合との間で協議のうえ、賃金の支払猶予等に関する労働協約を3回にわたって書面により締結したが(編注:それぞれ第1~3協約とし、猶予する賃金は未払賃金1~3)、その効力について所属組合員の上告人が争ったものである。
判決のポイント
1、本件事実関係等によれば、本件合意は被上告人と労働組合との間でされたものであるから、本件合意により上告人の賃金債権が放棄されたというためには、本件合意の効果が上告人に帰属することを基礎付ける事情を要するところ、本件においては、この点について何ら主張立証はなく、労働組合が上告人を代理して具体的に発生した賃金債権を放棄する旨の本件合意をしたなど、本件合意の効果が上告人に帰属することを基礎付ける事情はうかがわれない。
そうすると、本件合意によって…
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