あんしん財団事件(東京高判平31・3・14) 営業成績低く配転に、家庭の事情聴かず違法? 転勤命令 著しい不利益の判断覆す
転居を伴う配転の発令前に家族の事情を聴取せず、人事権濫用とした一審の控訴審。一審は、営業成績が低迷し環境を変える必要性はあるが、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負うとした。配転はその後撤回され、高裁は内示の違法性を判断。内示により配転を受けるかを検討でき、仮に上司らへ拒否理由を示せば配慮された可能性もあったと認め、慰謝料を命じた一審を取り消す。
内示され拒否も可 上司らに相談せず
筆者:弁護士 岩本 充史
事案の概要
本件は、認可特定保険業者であるYの職員Xらが、平成27年4月1日付けの各配転命令または降格処分、人事考課もしくは職種を変更する旨の業務命令等が退職強要の目的で行われた違法なものであり、精神的苦痛を受けた等と主張して、Yに対し、不法行為(当該業務命令については予備的に債務不履行〈安全配慮義務違反〉)に基づく損害賠償請求として、慰謝料等の支払いを求めた事案である。
本件では、Xらの主張が多岐にわたるため、Xらのうち事務職に従事していた女性職員に対して、勤務場所の変更を伴う広域配転の違法性の判断部分について紹介する。
Xらは、いずれも、期間の定めのない労働契約を締結している。Xらは本件配転命令を受けるまで、転居を伴うような広域の異動を経験したことが全くなく、Yにおいて従来からほとんどの女性職員に転居を伴う配転命令がなされていなかった。
Yの就業規則では「職員に対し業務上の必要性により、転勤または職種変更を命じることがある。職員は、正当な理由がない限りこれを拒むことができない」「財団は、前項の命令を発する場合、原則として命令の2週間前までに通知する。ただし、業務上やむを得ない場合、通知期間を短縮したり、事前通知を行わない場合もある」との定めがあった。…
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