宇和島労基署長事件(福岡地判令元・6・14) 営業マンの残業月70時間、心不全発症し労災は “過労死基準”下回るが認定
魚の薬を販売する営業マンが、心不全で死亡し、遺族が労災不支給処分の取消しを求めた。残業は各月70時間など過労死の認定基準を下回っていた。福岡地裁は、長時間労働の継続に加え、死亡直前には多くの営業成績を上げている取引先の社長の要求に応えて、海に転落する危険性がある作業をするなど肉体的疲労かつ精神的緊張が大きかったことを考慮して請求を認めた。
危険な作業に従事 重要取引先の対応
筆者:弁護士 渡部 邦昭(経営法曹会議)
事案の概要
甲は、平成12年3月、A社に中途入社し、平成20年4月以降、営業所において、養殖業者に対する魚薬等の営業販売に従事していた。平成26年2月7日午前7時頃、出勤後の営業車内において意識不明の状態で発見され、救急搬送されたが、同日午前8時18分心室細動を原因とする急性心不全により死亡した(当時47歳)。甲の妻は、甲の死亡の原因が、取引先との業務におけるストレスに晒されながらの長時間の過重労働に従事したことによるものであると主張して、宇和島労基署長に対し、労災法に基づく遺族補償給付等を請求したが、同労基署長は不支給とする決定をした。甲の妻はさらに、本件不支給決定に対して審査請求をしたが棄却され、その後の再審査請求についても裁決がなされないまま3カ月が経過したため、本件不支給決定の取消しを求めて、平成28年8月30日、本件の訴えを提起した。なお、訴えの提起後、労働保険審査会は上記再審査請求を棄却する旨の裁決を行った。
本件の争点は甲の急性心不全が業務により生じたといえるか(業務起因性の有無)である。本判決は、およそ以下のように判示して、本件不支給決定処分を取り消し、甲の妻の請求を認容した。…
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