庚申トラフィック事件(松山地決平8・8・9) 組合員への勤務差別は不当労働行為か 乗車拒否に伴う措置でOK
仮処分手続後の差 別は不利益扱いに
筆者:弁護士 畑 守人(経営法曹会議)
事案の概要
債務者(会社)と債権者ら7名の運転手が所属する組合は、平成7年3月頃から次第に厳しい対立関係に立つようになり、組合は同月2日、長距離勤務のうち、運転手には負担が多いが、経費面は安価で経営政策的に有利な「ヘッドレス運行」を拒否する申入れを行い、これを受けた債務者は、爾後「ヘッドレス運行」については非組合員に配車指示をし、債権者には配車指示しなかった。
平成8年3月26日、組合は債務者に対し、「ヘッドレス運行」について基本的に反対の態度はとっていないとの申入れをしたが、同時に、「ヘッドレス運行」が労働基準法及び告示7号に違反し、是正すべきであるなどの見解を表明、その後も組合役員が、終業時間までに帰社しない限り、運行途中の車両及び積載貨物を放置して組合員を帰宅させる旨の発言をしていたため、債務者は、組合員に乗車指示をしても紛争を招くことが明らかであるとして、「ヘッドレス運行」の乗車指示をしない取り扱いを続行した。
債権者らは、平成8年5月16日、本件仮処分の申立を行い、その手続きの中で、「ヘッドレス運行」の違法性を論難する意図はないことなどを明らかにした上で、債権者らに対し、非組合員と同等に「ヘッドレス運行」の乗車指示をするよう要望した。債務者は、同年8月1日に至って、債権者らに対する「ヘッドレス運行」を含む長距離勤務の乗車指示を再開した。
債権者らは、長距離勤務の回数が減り、歩合給賃金の支給額が著しく減額したのは、組合員であることを理由とする不利益な取り扱いにあたり、不法行為あるいは労働契約上の義務不履行であると主張して、長距離勤務指示の回数が減らされる以前の平均賃金額を基準に、実際の支給賃金額との差額及び将来的な右平均賃金額相当の金員の仮払いを求め、裁判所はその一部の仮払いを認容した。
決定のポイント
債権者らに対する長距離勤務の乗車指示が減少したのは、…
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