朋栄事件(東京地判平9・2・4) 退職勧告に「グッドアイデア」の返答? 合意退職とは認められない
外国人労働者との誤解と不信が要因
筆者:弁護士 中山 慈夫(経営法曹会議)
事案の概要
本件は、会社とカナダ人労働者Xとの間で退職合意の事実が争われ、Xが会社に対して労働契約上の地位確認及び賃金等請求を行った事件である。
Xは平成6年の夏期休暇期間経過後も約1週間会社に無断で出勤しなかったので、上司の部長が感情的になり「ファイヤー(解雇)」と言ったため険悪な関係となった。このため、人事部長がXに対し他の部署への勤務を提案したがXは拒絶した。
そこで、人事部長はXに対して有給休暇や会社都合による退職扱いの便宜を考慮した退職勧告を行ったところ、Xは「それはグッドアイデアだ」と答えた。会社はこれをもってXが退職勧告を承諾したものと主張した。
さらに、会社は本訴訟において予備的に黙示の任意退職・Xの就労意思の喪失、損益相殺を主張した。本判決は、一方で会社の主張する退職の事実を否定し雇用契約は存続するとしたが、他方でXが本訴訟中に会社での就労意思喪失の意思表示を行ったことに着目して、労働契約上の地位確認請求を排斥し、賃金は就労意思喪失の意思表示がなされる以前の分に限って認容した。従って、Xは実質上退職したに等しいが、形式上は雇用契約が存続することになる。本件の場合、このような結論が妥当かどうか疑問であるが、ここでは争点のうち、
① 会社とX間の合意退職の事実があったか否
② Xは会社から就労を拒否された後、他の会社に勤務して収入を得ていたので、Xの請求する賃金からこの収入を控除(損益相殺)すべきか否かについてみる。
判決のポイント
1 会社の退職勧告に対して、…
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