日本大学病院事件(東京地判平9・2・19) 経営主体の変更と雇用契約上の地位は? 当然には承継されない
当事者間の合意と労働者の同意必要
筆者:弁護士 渡部 邦昭(経営法曹会議)
事案の概要
開設当初から業績の悪かった練馬区医師会病院は、平成2年3月、その経営を断念し、病院経営主体の変更を練馬区に一任することにした。練馬区は新経営主体の選定作業に入り、平成3年1月、日本大学に決定した。これを受けて日大は、「医師会病院の医師、職員については、平成3年3月31日付をもって医師会および医師会病院が退職手続を完了し、同日までに有している労働契約上の権利義務を清算すること。なお、退職手続完了後、医師会病院に勤務していた者が新たに日本大学病院の教員・職員として雇用されることを希望する場合には、日大が所定の手続を経て採用する…。右清算後、新たに日本大学病院の教員・職員として採用される者には、経遇措置期間を設定し、同期間中は従前の労働条件を適用し漸次日大の諸規定を適用させるものとする」旨の回答をした。
練馬区医師会は、平成3年3月31日をもって医師会病院を廃止し、全職員を同日をもって解雇した。日大は、医師会病院の職員に対し、募集要領に従って日大病院に勤務を希望する者を募集し、就職の申し込みをした全員を採用した。しかし、Aら38名は、日大に対して、従前と同一の労働条件での雇用を求めたため、日大は、平成3年3月28日付でAら38名の採用を拒否した。
Aらは雇用契約上の地位の承継を主張して、日大病院に対して、その地位の確認、賃金の支払いを求めた。
判決のポイント
争点は、①病院事業の譲渡にともなって、雇用関係が当然に承継されたといえるか、②仮に、そういえないとしても、医師会と日大病院との間で、医師会の職員について雇用契約上の地位の承継を合意したといえるか、の2点である。…
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