国立療養所青野原病院職員セクハラ事件(神戸地判平9・7・29) 社員のセクハラ問題に対する使用者責任? 「業務遂行の過程」なら負う
執行行為契機とし 密接な関連が要件
筆者:弁護士 中町 誠(経営法曹会議)
事案の概要
国立病院に職員(日々雇用職員)として採用され、右病院の洗濯場に勤務していた原告が、洗濯場の洗濯長Yから胸を触られるなどの性的嫌がらせを受け、これを拒否したところ、仕事に必要な指示を与えない等不利益な扱いを受けたとして、Yに対し不法行為責任、被告国に対し不法行為又は債務不履行責任に基づく損害賠償を請求した事案である。
判決のポイント
被告Yは、原告の意思を無視して性的嫌がらせ行為を繰り返し、原告が性的嫌がらせ行為に対して明確な拒否行動をとったところ、職場の統括者である地位を利用して原告の職場環境を悪化させたものである。被告Yの一連の行為は、異性の部下を性的行為の対象として扱い、職場での上下関係を利用して自分の意にそわせようとする点で原告の人格権(性的決定の自由)を著しく侵害する行為である。
被告Yの原告に対する性的嫌がらせ行為及び職場におけるいじめは、勤務場所において、勤務時間内に、職場の上司であるという立場から、その職務行為を契機としてされたものであるから、右一連の行為は、外形上、被告国の事業の執行につき行われたものと認められる。
性的嫌がらせ行為については、その行為の性質上密室的な場所で行われることが多く、被害者も差恥心等から被害の申告をためらうことが少なくないなどの事情があるといえ、管理者にとってはその発生の把握及び適切な対処について困難があることは否定できない。しかしながら、訴外病院の洗濯場においては他の職場に比して男性定員内職員である洗濯長の地位の優越性が認められること、早出における乾燥室での作業等男女職員が接近して共同して作業する状況があり、…
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