【裁判例が語る安全衛生最新事情】第364回 N商会事件 セクハラ対応で注意義務違反を否定 東京地裁平成31年4月19日判決
Ⅰ 事件の概要
原告X(女性)は、平成22年8月に被告Y社に入社して営業補助担当の業務を行っており、加害者とされるA社員(男性)は平成24年5月からY社に入社し、倉庫業務の担当をしていた。
Y社は、ベアリングの機械部品の販売などを業とする株式会社である。従業員は12人であった。
Aは入社後すぐにXに好意を持ち、平成24年10月ごろにメールで食事に誘った。食事後、AはXに交際を申し込んだが、Xは回答しなかった。Aはその後もXに対して、時々メールを送る、会社の最寄り駅で土産を渡す、交際の申し込みの返答を聞くために待ち合わせをしようとしたが、Xにはその意思がなかったためにそれらを無視した。
その後、XからAのメールで困っていると告げられた取締役管理部長であったBは、メールで拒否するようにアドバイスをしたが、Xはそれをしなかった。
Aは、Xがメールをくれないばかりでなく、冷たい素振りをするので、平成25年1~3月ごろにかけて、Xに対し、「いつもなんかゴメンね。きちんと話し合いたいです」「Xさんの気持ちを察せなくて申し訳なかったです」「迷惑かもしれないけどいまXさんの側にいたい」などのメールを送った。
平成25年9月に、XはB部長に対して、Aとの接触を回避したいので担当を交代できないかと相談し、B部長はC営業部長に対して報告し、C部長がAに事実の確認をしたところ、Aは、過去にXに恋愛感情を持ちメールを送っていたが現在は送っていないと述べた。C部長は、内容にかかわらずメールを送ってXを不快にさせないよう注意し、Xに謝罪するように指導した。Aは了解して、Xに謝罪し、その後はメールも送っていない。
ところが、Xは、その後も不快な行動が続いているとして、配置転換、業務内容の変更、Aの懲戒処分、Aの退職を求めてきたが、Y社は、接点である伝票の受け渡しを伝票箱を用いる方法に変更したり、担当業務の変更を許容するなどした。しかしながら、Xは、Y社の対応に不満を持ち、Aの懲戒解雇に固執して、平成28年9月20日に退職した。
Xは、Aからセクハラを受け、Y社に適切な対応を求めたにもかかわらず、Y社が調査をせず、安全配慮義務違反、職場環境配慮義務違反を行ったとして慰謝料など約900万円の損害賠償請求訴訟を提起した。
Ⅱ 判決の要旨
1、Y社の調査・対応
Y社は、平成25年9月ごろに、…
執筆:弁護士 外井 浩志
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