【人事学望見】第1281回 賃金請求権の発生 使用者に帰責事由ある場合だけ
労働契約上、職務や業務の内容が特定されていない場合、私傷病にり患して契約で定めたそれまでの約束ができなかったら賃金請求権は失われるのか。判例では、従来と異なる労務の提供を行う旨の申し出を行い、配置可能な業務があるときは権利を失わない、としている。
職務の特定ないときも可
労働契約の内容と異なる労務の提供は有効かが争われた代表的な判例と位置付けられているのは片山組事件(最一小判平10・4・9)である。
事件のあらまし
Aは昭和45年3月Yに雇用され、建設現場における現場監督として従事していた。
平成2年夏、Aは、バセドウ氏病にり患しているとの診断を受け、以後通院しながら同3年2月まで現場監督業務を続けていたが、次の現場監督業務が生ずるまでの間、臨時的・一時的業務としてYの工務管理部において図面の作成などの事務作業に従事していた。
Aは、同年8月20日から労働契約上の業務である現場監督業務に従事すべきという旨の業務命令を受けたが、病気のため、現場作業に従事できないこと、残業は1日1時間に限り可能なこと、日曜日や休日労働は不可能なこと等を申し出て、9月9日、Yの要請に応じて「内服薬にて療養中であり、今後厳重な経過観測を要する」旨の診断書を提出した。これに対し、Yは9月30日付の指示書で「当分自宅療養すべき」旨の業務命令を発出した。Aは「事務作業はできる。デスクワーク程度の労働が適切」という主治医の診断書を提出したが、現場監督業務に従事し得るという記載がなかったため、Yは重ねて自宅療養を命じた。
平成4年2月5日に現場監督業務に復帰したものの、Yはこの間(約4カ月間)を欠勤扱いとし、賃金および同3年12月分賞与も減額支給としたことからAは欠勤扱い中の賃金と賞与の減額分を請求し提訴した。
判決の要旨
AはYに雇用されて以来21年以上にわたって現場監督業務に従事してきたものであるが、…
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