【人事学望見】第1282回 懲戒解雇と退職金支給 功労前面に賃金後払説を封じる
退職金には、賃金後払い的性格と功労報償的性格がある。一般的には懲戒解雇の場合に退職金不支給というのは認知されているが、争いとなると功労報償部分はともかく、賃金部分についての全額没収について、賃金全額払いに違反するなどの訴えが少なくない。
7割減額の痴漢電鉄社員
私鉄会社に勤務する社員が、他社の電車内で痴漢行為に及び逮捕・拘留・起訴されたことから、面目を失った会社は当人を懲戒解雇に付し、退職金を没収したため、争いになったのは小田急電鉄(退職金請求)事件(東京高判平15・12・11)。世間を騒がせた事案だった。
事件のあらまし
痴漢撲滅運動に取り組んでいる鉄道会社Yに勤務していたAは、勤務態度も真面目で昇任試験にも合格するなど優秀な社員と目されていた。
ところが、Aはあろうことか他社の電車内で、女子高生のお尻を触る痴漢行為で逮捕された。身元引受けのため、Yの社員が警察署でAに面会し事情を聴取したところ、なんと以前にも数回、同様の事件で逮捕されていたことが分かり、その場でAは、「痴漢行為の事実を認め、会社の処分に従う」旨の自認書にサインした。正式起訴されたAは執行猶予付き判決を受けた上、余罪も自白したことから、Yは就業規則の懲戒事項に基づき懲戒解雇するとともに退職金規程の不支給条項により退職金(勤続20年のYの退職金は約920万円が予定されていた)を不支給とした。
これに対しAは、①解雇は手続きの瑕疵があり、処分内容も重すぎて無効②勤続20年間の功労を消し去るほどの不信行為には当たらないとして提訴した。一審(東京地裁)は、懲戒解雇および退職金の不支給についていずれも有効と判断したため、Aは控訴した。
判決の要旨
本件懲戒解雇はその手続きに瑕疵がなく、処分内容としても…
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