【人事学望見】第1287回 企業同士の転籍交渉 本人同意のあいまいさで挫折へ
2021.04.30
【労働新聞】
転籍には、①労働者と現企業との労働契約を合意解約し、新労働契約を締結するという方法と、②現企業が労働契約上の使用者たる地位を全部譲渡するという方法があり、いずれも労働者の同意が必要だが、菅野教授は転籍先を明示した明確なものを要すると指摘している。
明確な要件 確認ができず
転籍先との新労働契約が成就しなかったときは、転籍元との合意解約も条件不成就とされたものに生協イーコープ事件(東京地判平5・6・11)がある。
事件のあらまし
YおよびZはどちらも生活協同組合事業を営んでいる。
Aは、昭和52年7月、Zとの間で雇用契約を結んでいた。平成元年7月になって、ZはAに対し、Yへの移籍を提案した。これは、ZとY間で結ばれた合意による移籍提案に基づくもので、Aは当時現企業だったZのB理事からの移籍提案に応じて、移籍承諾書への署名を求められた。Aは承諾書に署名し、移籍が実現したときに提出するとして、写しをB理事に交付した。
その後AとYとで移籍に関する協議が行われ、Aは就業規則所定の「職員として採用された者」に要求される採用関係書類をYから求められたため、これを交付して転籍の意思表示を行った。これにより、雇用契約が成立したのだが、Aが業務に就かなかったことから、Yは勤務する意思がなく態度も悪いと判断して解雇することとした。Aは雇用契約上の地位を有することおよび賃金の支払いを求めて提訴した。…
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令和3年5月10日第3304号12面 掲載