【裁判例が語る安全衛生最新事情】第368回 アスベスト遅延損害金請求控訴事件 起算日を病理組織検査日に変更 福岡高裁令和元年9月27日判決
2021.05.11
【安全スタッフ】
Ⅰ 事件の概要
本件は、被告を国とするアスベスト粉じんにばく露して肺がんにり患した原告Xの損害賠償請求権の遅延損害金が問題となった事件である。原告Xは、石綿スレート工場で石綿粉じんにばく露したことにより肺がんにり患した者である。Xは、平成20年9月26日に肺がんの確定診断を受け、平成22年2月12日に労災認定を受けた。
アスベストの国家賠償請求事件では、すでに泉南アスベスト第2陣訴訟の最高裁判決が出され(最高裁一判平成26年10月9日判決)、その結果、被告国は、その原審である大阪高裁判決(大阪高裁平成25年12月25日判決)の判断に従って、訴訟上の和解を行う方針であるが、本件もその和解の方針に沿ってXは訴えを提起した。そのため、本件では、Xが国家賠償法により被告国に対して損害賠償請求権を有することには争いがないが、Xのり患している肺がんという損害について遅延損害金の起算日に争いがあり、判決となった。
一審判決(福岡地裁小倉支部平成31年3月12日判決、第366回で紹介)は、肺がんり患確定日から遅延損害金が発生するという判断になり、被告国の最終の行政上の決定を受けた時から遅延損害金が発生するという主張を排斥した。
本件は、被告国が控訴したが、その控訴審判決である。
Ⅱ 判決の要旨
1、肺がんの損害
Xが主張している損害は、石綿に起因する肺がんであるが、…
執筆:弁護士 外井 浩志
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2021年5月15日第2378号 掲載