【人事学望見】第1299回 労働契約成立過程の争い 信義誠実原則に反するか否か!?
労契法によると、使用者は労働契約締結に際し、労働条件などについて懇切丁寧に説明し、労働者の理解が深まるよう努力することが求められている(労働契約の内容の理解の促進=4条)。実際には契約締結を準備する段階で齟齬が生じて損害賠償問題へ発展した事案も多い。
説明方法が誤解を招いた
求人広告掲載の労働条件と実際の労働条件とが異なっていたとして争いになったのは、日新火災海上保険事件(東京高判平12・4・19)である。
事件のあらまし
自動車会社を退職してY保険会社に中途入社したAは、会社説明を根拠に、「新卒同年次定期採用者の平均的格付けによる給与を支給することを内容とする雇用契約が成立していた」にもかかわらず、平均的格付けを下回る給与が支給されたとして①未払い賃金②不法行為に基づく慰謝料③時間外労働手当の支払いおよびその付加金を求めて提訴した。
求人広告には、「キャリアを活かした転職(中略)きっと納得していただけるような待遇を用意」「89年卒、90年卒を第二新卒募集として、89年卒の方なら、89年に新卒入社した社員の現時点の給与と同等の額をお約束します(ただし、Aは該当しない)」と記載されていた。第一審(東京地裁)は、Aの請求を棄却したため、控訴となった。
判決の要旨
本件求人広告は、個別的な雇用契約の申込みの意思表示とみることはできないうえ、その記載自体から、89年および90年既卒者について同年次新卒者と同等の給与額を支給する旨表示したもので、…
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