【裁判例が語る安全衛生最新事情】第139回 O技術事件 孫請作業員の被災と元請けの責任 福岡高裁那覇支部平成19年5月17日判決
Ⅰ 事件の概要
被告Y社は、土木工事を営む会社であり、沖縄市から本件土木工事を請負い、下請業者M社に発注し、M社は孫請業者N社に発注した。亡AはN社に常用雇用されて日当の支払いを受けていた。
被告Y社は、本件工事の現場から100mないし200mほどのところに現場事務所を置いてDを現場代理人としていた。下請業者であるM社は、Fを現場代理人として選任したが現場に常駐せずに、作業員も本件工事現場におらず、孫請業者であるN社に丸投げしていた状態であった。孫請業者N社の現場代理人はEであったが、本件工事現場を掛け持ちしており、本現場と200mくらい離れた他の工事現場の双方の見回りをしていた。
N社では、本件工事現場に擁壁を築くために床掘りした部分の埋め戻し作業を行うこととなり、亡Aの所属していた班がその作業を行うこととなった。
事故当日の作業は、床掘りをした後、その箇所に既製のL字型コンクリート擁壁を設置し、床掘りした部分を埋め戻すというものであった。
Eは、仕切としてベニヤ板に変えて鉄板(縦1.53m、横3.5m、重量800kg)を使用することとしてDに報告のうえで作業をしていたが、その埋め戻し作業中に、鉄板と土壁面との間を支えていた桟木が外れて鉄板が土壁面に倒れたため、鉄板の土壁面側にいた亡Aは鉄板と土壁面との間に挟まれて、肝損傷による出血性ショックにより死亡した。
原告X1は亡Aの妻、原告X2はその子である。原告X1とX2は、元請けである被告Y社と下請会社のM社を被告として訴えた。
第一審の途中で、M社は原告X1らに1000万円を支払い、原告X1らはM社に対する訴えを取り下げたが、一審判決(那覇地裁沖縄支部、平成18年8月31日判決)は、被告Y社については、元請業者であるY社の現場代理人Dには安全配慮義務はないとして、被告Y社に対する請求を棄却した。原告X1らが控訴し、本判決はその控訴審判決である。
Ⅱ 判決の要旨
1、元請人の安全配慮義務について
安全配慮義務は、…
執筆:弁護士 外井 浩志
この記事の全文は、安全スタッフの定期購読者様のみご覧いただけます。
▶定期購読のご案内はこちら