【裁判例が語る安全衛生最新事情】第166回 前田道路事件 不正叱責後の自殺と安全配慮義務 高松高裁平成21年4月22日判決
Ⅰ 事件の概要
被告Y社は土木建築を請負う会社である。被災者亡Aは、昭和61年にY社に入社し、平成15年1月に四国内のT営業所の所長になったが、各営業所には年間事業計画があり、ノルマ制となっていた。亡Aは、就任1カ月後から受注高、出来高、原価等を四国支店に報告する際に、現実の数値とは異なる数値を報告するようになり不正経理を行うようになっていた。
四国支店工務部長Bは、平成15年6月に架空出来高の計上されていることに気づき、亡Aがこれを認めたので解消を指示したが、亡Aは解消せずに平成16年初めに解消したと報告した。ところが、平成16年4月に四国支店の工務部長となったCは、T営業所の報告におかしい点があることに気づき、亡Aを四国支店に呼んで架空出来高があることを認めさせた。その時点で約1800万円の架空出来高があるので、今後の解消法について話し合い、亡Aの経歴に傷が付かないように計画的に架空出来高を解消していく方法を採用することとした。さらにCは、T支店では工事日報が付けられていなかったことから、亡Aに毎日日報を書いてファックスで送るように指示をして、ファックスを見て、そのつど電話で亡Aに対して指示・指導を行った。
平成16年9月10日に、T営業所で業績検討会が開催されCも参加し、その準備の際に亡Aが数字の改ざんを指示していたが、Cからその資料の内容がおかしいことを指摘され、さらに工事の日報を見せるように指示されたが、その工事は架空工事であったために日報はなかったのでCは日報の重要性を説き、「現時点で既に1800万円の過剰計上をしているのに過剰計上が解消できるのか。できるわけがなかろうが」「会社を辞めれば済むと思っているかもしれないが、辞めても楽にはならないぞ」と亡Aを叱責した。その3日後に亡Aは自殺した。
遺族である妻X1と子X2は、労災申請とともに、亡Aを自殺に追い込んだのは上司であるCらが過剰な叱責を行ったからであるとして安全配慮義務違反による損害賠償請求を提起した。一審判決(松山地裁平成20年7月1日判決)は、Cの叱責・注意と亡Aの自殺の因果関係を認め、業績検討会での叱責などは不法行為と判断したが、亡Aの不正経理などの事情により、亡A側にも6割の過失があると判断した。これに対しX1らとY社の双方が控訴、本件はその控訴審である。…
執筆:弁護士 外井 浩志
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