【裁判例で読み解く!!企業の安全配慮義務】第10回 親会社の責任 信義則問われる可能性 体制や相談内容に応じて/家永 勲
法改正で状況は変化
複数の企業が相互に資本関係や関連を有するといった企業集団(以下「グループ会社」という)において、親会社は子会社の従業員に対して安全配慮義務責任を負うのであろうか。
このような事例のリーディングケースは、最高裁平成30年2月15日判決(イビデン事件)である。事案の概要としては、次のとおりである。事件の当事者となった企業は、グループ会社を含めた法令遵守体制として、グループ共通の内部通報窓口を設置していた。当該グループ会社内の企業に勤めていた労働者が上司から交際を迫られる状況となり、退職に至り、その後、当該労働者は、派遣会社を通じて同じグループ会社内の別の企業に勤めるようになっていた(この時点では親会社への通報は行われていない)。退職後においても、当該上司からの付きまとい行為があったとの内部通報が、被害を受けている労働者とは別の同僚から行われたため、親会社は、調査を実施したが、被害者である労働者からのヒアリングなどの調査は行わなかったところ、親会社として被害者である労働者からのヒアリング調査などを行うべきであったなどと主張されたというものである。この事案において、親会社は、被害者である労働者とは、直接の労働契約がないため、契約に基づく安全配慮義務(労働契約法第5条)は負担しない。しかしながら、本連載の第3回においても直接雇用ではない場合の安全配慮義務について解説したが、安全配慮義務が肯定されるのは、労働契約に限定されるわけではなく、労働関係と類似するような「特別な社会的接触関係」がある場合には、安全配慮義務を負担する可能性は否定できない。さらに、この事案はグループ会社内の出来事でもあるという特殊性もあり、最高裁の判決も注目されていた。
当該事案の結論としては、親会社の安全配慮義務違反は否定されたが、判示された内容は、グループ会社内の内部通報制度と親会社の安全配慮義務について示唆に富む内容であった。…
筆者:弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲
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