【裁判例が語る安全衛生最新事情】第417回 自賠責と労災補償の関連事件 労災給付後の未補填分請求は案分に 最高裁令和4年7月14日判決
Ⅰ 事件の概要
被害者Xは、平成28年1月5日、原動機付自転車で交差点において右折するために自車線上で停止していたところ、反対車線から中央線を越えて進行してきた車両の運転手の前方不注視などの過失のために同車両と衝突し、Xは左脛腓骨開放骨折などの傷害を受けた。Xは、まず労災保険から療養補償給付および休業補償給付として合計864万2164円の支払いを受けたが、それでも損害額の完済を受けることはできなかったので、加害車両に付保されている加害者の自賠責保険の被告Y保険会社に対して残額である440万1977円を請求したが、他方、国も労災保険法12条の4第1項により国に移転した直接請求権を行使した。Y社は、請求額に案分して原告Xに対して16万788円を支払い、国に対して残りの103万9212円を支払った。
原告Xは、Y社は自らに全額支払うべきであるとして、Y社を被告とする訴訟を提起した。一審判決(大阪地裁令和2年11月2日判決)、控訴審判決(大阪高裁令和3年6月3日判決)は、Xの請求を認容したが、Y社が上告した。
Ⅱ 判決の要旨
1、原審判決の考え方
交通事故の被害者は、労災保険給付などを受けてもなお補填されない損害(以下「未補填損害」という)について直接請求権を行使する場合は、他方で労災保険法12条の4第1項により国に移転した直接請求権が行使され、上記各直接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超えるときであっても、国に優先して自賠責保険の保険会社から自賠責保険の限度で損害賠償額の支払いを受けることができる(最高裁平成29年(受)第659号、第660号同30年9月27日第一小法廷判決・民集72巻4号432頁参照)。このことからすれば、…
執筆:弁護士 外井 浩志
この記事の全文は、安全スタッフの定期購読者様のみご覧いただけます。
▶定期購読のご案内はこちら