【裁判例が語る安全衛生最新事情】第425回 熊本陸上自衛隊共通教育中隊事件 暴行の翌日自殺で相当因果関係否定 熊本地裁令和4年1月19日判決
Ⅰ 事件の概要
亡Aは、陸上自衛隊の陸曹候補生課程に入隊して、共通教育中隊に配属されていたが、教官である被告Y1、Y2に暴力的ないじめ嫌がらせを受けて、その翌日に自殺した。原告X1は父、X2は母で、Y1、Y2に不法行為責任を、被告Y3(国)に使用者責任、国家賠償法1条、安全配慮義務違反による責任を求めて、損賠償請求をすることとし、訴訟を提起した。
Y1は、亡Aが所属していた区隊の区隊長かつ学生全体の躾教育に教官として配置され、Y2は、学生全体の教育を担当する指導陸曹として配置されていた。教育中隊では、「伝令業務」を行わせていたが、これは、教育側の基幹隊員ごとに担当を定められた学生が、基幹隊員のために半長靴を磨くほか、野外演習の際に野営用の荷物をトラックに積載したり、食事の配膳などの庶務事務を行うというものである。
亡Aは、平成27年9月29日に教育中隊に配属されたが、同年10月5日、6日にY1、Y2の暴言と暴行も原因となり、直後の翌10月7日に自殺した。自衛隊西部方面団長は、事後、Y2に対して、本件の学生指導中に学生の胸ぐらをつかみ揺する暴行を加えたことを理由に停職6日とする懲戒処分を、また、Y1が本件の亡Aを含む学生多数に対して不適切な暴言を発するとともに、Y2の亡Aに対する暴行を目撃したにもかかわらず、Y2への指導および上司への報告を怠ったことを理由に、停職10日とする懲戒処分を行った。
なお、被告Y3(国)は、国家公務員災害補償法に基づき、遺族補償一時金約725万円、葬祭補償約53万円、遺族特別支給金300万円、遺族特別援護金1860万円、遺族特別給付金約145万円を支払った。
Ⅱ 判決の要旨
1、Y1による暴言、暴行と安全配慮義務違反
平成27年10月5日、Y1は、…
執筆:弁護士 外井 浩志
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