【裁判例が語る安全衛生最新事情】第442回 Y社事件 下請けの被災で元請けに安全配慮義務 東京地裁令和4年12月9日判決
Ⅰ 事件の概要
被告Y社は、油圧機械の製作、販売、再生加工を目的とする会社である。Y社は、スリランカ国籍のAを代表者とする訴外B社に対して、工場内に設置された金属製の棚をガスバーナーで溶断して解体する工事を依頼した。B社には人手がないとして、Aの義理の弟でスリランカ人の原告Xの了解が取れれば、本件解体工事を請ける旨をY社に伝えたところ、Xがこれを了解したために、AとXとは一緒に本件解体工事を請けることにした。
Xは、その解体工事でY社代表者から新品のガスバーナーを提供され、Xは、それを使用した。Y社の代表者は、AおよびXに対して、本件棚の天板(天板の高さは1.97m)上に乗り、ガスバーナーを使用して天板を途中まで溶断し、天板に本件工場内に備え付けられた天井クレーンのワイヤを括り付けて固定し、途中まで溶断していた天板を完全に溶断し、AおよびXは地上に降り、AまたはXにおいて溶断した天板に対応する縦柱の根元部分を溶断し、Y社代表者が天井クレーンを操作してワイヤに括り付けられた溶断された本件棚の一部をトラックに積み込み、Y社代表者がトラックでこれを搬出することを繰り返すという本件解体工事の基本的な作業工程を説明し、1回ごとの切断に当たっては、ワイヤを括り付けやすいように天板を切断すべき範囲を大まかに説明するなどした。
Y社代表者は、溶断した天板に対応する縦柱の根元部分を溶断する際に、ワイヤを括り付けた溶断中の本件棚の一部がワイヤの伸長などの影響により激しく揺れてAに衝突しそうになったことから、先に縦柱の根元部分を半分程度溶断してはどうかと提案した。Aはこれに応じ、天板を完全に溶断する前に縦柱の根元部分を半分程度溶断するよう作業工程を変更した。その後、AとXは、本件倒壊部分の溶断に取り掛かった。Aは、本件倒壊部分を支える縦柱が1本のみであったものの、その根元部分を一部溶断し、Xは、そのAの作業の様子を見ていた。
その後、AおよびXが天板の上に乗って天板の溶断をしていたところ、Xが乗っていた本件倒壊部分が倒壊してXは地上に転落した。Xは、急性硬膜下血腫の開頭除去手術を受けるなどして、後遺症により左側上下肢まひの障害が残った。Xは被告Y社に対して安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求訴訟を提起した。
Ⅱ 判決の要旨
1、Y社と原告Xの関係
XとY社との間で直接労働契約が締結されたとまでは認めがたい。Xは、少なくともAまたはB社の下請けの立場にあったものと認めるのが相当である。そして、Y社がXに対して道具を提供したことや、Y社代表者がXに対して本件解体工事の作業工程を指示したことなどを踏まえると、XとY社との間には、…
執筆:弁護士 外井 浩志
この記事の全文は、安全スタッフの定期購読者様のみご覧いただけます。
▶定期購読のご案内はこちら