【裁判例が語る安全衛生最新事情】第445回 伊藤忠商事・シーアイマテックス事件 海外視察中の事故で使用者責任認める 東京高裁令和5年1月25日判決
Ⅰ 事件の概要
原告X1は、被告Y2社(Y1マレーシア)に入社し、被告Y1社に出向していた者であり、原告X2はその妻である。
X1は、Y2社に入社後、すぐにY1社に出向し、Y1社の東京本社で勤務していた。Y1社は、他社が東南アジアに特殊肥料工場を建設する計画を受けて、マレーシアへの視察を企画し、X1はその支援のために参加することになり、平成25年7月15日から7月20日までマレーシアに出張した。
本件視察には、Y1社の関連会社であるC社も関与し、その参加者がAであった。さらに、肥料販売事業を行うY1社と資本関係のあるD社の役員であるBも参加した。視察の詳細については、X1とBで計画し、平成25年7月17日には、クアラルンプールからペナンへ移動することになり、参加者は2台の車で移動し、X1はAの運転する自家用車で移動することになった。ところが、Aは高速道路走行中にガードレールのない本道から側道に落ち、土壁に衝突して大破するという事故を引き起こし、Aは死亡し、X1も左大腿骨切断、全身の瘢痕、右上下肢の麻痺などの重大な障害が残り、労災の障害等級1級の認定を受けた。
X1は、Y1社、Y2社に対して安全配慮義務違反による損害賠償請求をし、さらに、使用者責任または自動車損害賠償保障法3条に基づく損害賠償請求を行った。また、その妻である原告X2は、本件事故により甚大な精神的苦痛を受けた旨を主張して、使用者責任または自賠法3条の損害賠償請求をした。その一審判決(東京地裁令和2年2月25日判決)はすべてX1らの請求を棄却した。本件はその控訴審である。
Ⅱ 判決の要旨
1、準拠法について
使用者責任および運行供用者責任に基づく損害賠償請求につき、不法行為の成立および効力についての準拠法を定める通則法17条により原則としてマレーシア法が準拠法と解されるが、本件では日本のほうが明らかにより密接な関係がある地であり、同法20条により日本法が準拠法になる。
Y1社、Y2社らの「主たる事務所」がいずれも日本国内にあり、…
執筆:弁護士 外井 浩志
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