【裁判例が語る安全衛生最新事情】第448回 古河市過労自殺事件 業務量調整可能と認めず過失相殺否定 水戸地裁下妻支部令和6年2月14日判決
Ⅰ 事件の概要
原告Xは、被告Y市の教員であった亡Aの妻である。亡Aは、中学校の吹奏楽部の顧問であり、Xも吹奏楽部活動に関わっていた。
亡Aは平成29年2月にうつ病を発症し、同年2月24日には自殺に至った。
亡Aは、平成27年度、28年度と吹奏楽部の顧問をし、原告Xも、平成27年9月ごろから吹奏楽部の活動に関わっていた。
亡Aは、部員の生徒と話し合い、吹奏楽部コンクールでの金賞優勝を目標として部活動に取り組んでおり、本件吹奏楽部の活動時間は他の部活動に比較して突出して長い状況にあり、部員の保護者による吹奏楽部後援会も組織されていた。
平成28年4月以降、本件吹奏楽部の指導計画書の作成やコンサートの録音を巡って、亡AとX、副部長Fとの間に関係の悪化が生じて、Fは副部長を辞するに至った。
平成28年9月に、本件吹奏楽部は全国大会の金賞を目指して吹奏楽コンクール東関東大会に出場したが、全国大会への出場は叶わなかった。
その後、平成29年2月に、吹奏楽部部長であったBの両親からBが退部したい旨が伝えられ、D校長は、亡Aに対して「全国大会へ行けばこの問題は起きなかったよね」と述べ、さらに、吹奏楽部の活動時間が、本件中学校の中で突出して長いことについても「茨城県を代表する部活動としては、まあしょうがないと思う」と述べたほか、D校長は、亡Aの心の安定のために心療内科に行くよう勧めた。
平成29年2月14日に、亡Aは自宅を飛び出し、同月16日、休暇を取って病院をXを伴って受診し、うつ病と診断され、担当医師からは1カ月程度休むことを勧められたが、休めない旨返答した。担当医師は、診療録に「部活での生徒・妻との間に入っており負担が++になり抑うつ状態を呈している」などと記載し、リフレックス錠、ワイパックス錠を14日分処方した。亡Aは、同月24日の深夜に自殺した。
亡Aの時間外労働時間は、自殺の3カ月前は約135時間、2カ月前は約99時間であったものの、1カ月前は約178時間に至っていた。
相続人であるXは、D校長の安全配慮義務違反、過失を理由としてY市に対し国家賠償法1条1項による損害賠償請求訴訟を提起した。
Ⅱ 判決の要旨
1、D校長の責任
D校長については、亡Aの長時間労働を知りまたは容易に知り得る状況下にありながら、亡Aの健康状態を具体的に把握する方策も、長時間にわたる労働時間を具体的に軽減する方策も講じておらず、その結果、…
執筆:弁護士 外井 浩志
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