【見直すべきは何なのか…労働基準関係法への提言!】リレー連載 第2回 労働時間制度 労働者自ら健康確保 デジタル技術を活用して/大内 伸哉
規制強化するも過労問題は残る
労基法のなかで最も重要な規制は、労働時間規制と言って良かろう。今日でも、解雇規制と並ぶ労働政策上の重要テーマだ。その理由は、労働時間規制には、健康確保という重要な目的があるからだが、同時に、創造的なアイデアが経済に与える影響が大きくなっている今日、自由で柔軟に働ける環境の整備という観点からの労働時間規制緩和論があることも関係している。もちろん、自由に働ける環境が必要だとしても、労働者の健康確保はそれより上位の要請だ。実際、裁量労働制や高度プロフェッショナル制のような例外的な労働時間制度(弾力化や適用除外)を設ける際には、健康確保措置をはじめとする厳格な要件が課されている。
問題は、個人の健康確保の実現に、現行の労働時間規制が最適であるかだ。36協定の締結・届出と割増賃金支払義務で長時間労働を抑制しようとする仕組みは、比較法的にみてもかなり厳格だが、それにもかかわらず過労問題が解決されていないことからすると、この規制の効果には疑問を持たざるを得ない。実際の労働時間規制は、見直すどころか一層の規制強化に邁進してきた(割増率の引上げ、絶対的上限の導入など)が、これは労基法が今なお、工場労働を想定した規制という枠組みを引きずっていることを示している。
工場労働であれば、労働時間の長さに比例して疲労が蓄積しても、それは工場の稼働を管理する企業側で制御可能だ。だから、企業への労働時間管理の義務付けに効果がある。しかし、ホワイトカラーの仕事では、本人の裁量が大きくなり、疲労の程度も、必ずしも労働時間数に比例はしない。したがって、ホワイトカラーについては、工場労働者と同様の労働時間管理を企業に義務付けても、健康確保の効果は限定的なのだ。それのみならず、こうした規制は、…
筆者:神戸大学大学院 法学研究科 教授 大内 伸哉
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