【裁判例が語る安全衛生最新事情】第452回 上益城消防組合事件 異動前の不安へ対応せず予見可能 熊本地裁令和6年2月2日判決
Ⅰ 事件の概要
亡Aは、消防組合の職員で危険物係長を務めていたが、令和元年5月6日に自殺した。原告X1はその妻、X2はその長男である。
被告Y組合は、熊本県内の複数の町を構成町として、消防に関する事務を共同処理するために地方自治法284条2項により設置された一部事務組合である。
亡Aは、人事異動により平成31年4月2日からY組合の危険物係長として勤務を開始したが、前任者であり、かつ、上司であるB課長によるさまざまないじめ、嫌がらせにより、自殺するに至った。なお、亡Aは、消防本部の危険物に関する業務の経験も、また知識もなかったことから、その業務を遂行するためには、その知見を有する者による研修・指導が必要であったが、Y組合はそのような教育や指導をしていなかった。
前任であるB課長は、亡Aを指導するどころか、逆に、叱責し、嫌がらせをする状況であった。そのため、亡Aは自殺した。
原告X1らは、Y組合を被告として、亡Aの自殺は、Bのパワーハラスメントによるものとして、選択的に国家賠償法1条1項または民法415条(安全配慮義務違反)に基づき、慰謝料などの一部である2000万円およびこれに対する遅延損害金の支払いを求める損害賠償請求訴訟を提起した。
Ⅱ 事件の概要
1、B課長の経歴など
Bは、平成31年4月1日当時、7年以上にわたる予防指導課危険物係における業務経験を有しており、係長の下位に位置づけられる予防危険物主事には亡A以外の者が配置されてきた。
2、亡Aの異動に対する不安
遅くとも亡Aが平成31年3月15日までに、危険物係長の後任候補に挙がっていることを認識するに至り、Y組合の消防署長であるCに対し、このような人事異動には反対することについて相談したところ、…
執筆:弁護士 外井 浩志
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