【社労士が教える労災認定の境界線】第371回 石綿作業後、40年以上経て肺がんに
災害のあらまし
昭和45年、当時18歳の男性Aは某県内の自動車工場で石綿の吹き付け作業に従事していた。当該作業に当たっていたのは2カ月程度で、その後は地元に戻って40年間にわたり飲食店を経営していた。
平成28年の夏、咳が止まらなくなったので病院で診察を受けたところ、肺がんと診断され、その後平成29年2月に死亡した。Aを肺がんと診断した医師からは、Aが以前従事していた石綿の吹き付け作業との関連性を示唆する発言があったものの、Aに喫煙習慣があったことから最終的にたばこが原因と判断された。
判断
肺がんの発症が業務上疾病と認定されるためには少なくとも1年以上の石綿ばく露作業従事期間を必要とするのが原則ではあるが、Aが石綿の吹き付け作業に従事していたのは2カ月程度であった。
しかし、医師などで構成される厚生労働省の検討会でAの胸部X線写真などを分析したところ、石綿の吸引で表れる特有の症状がみられたことから、石綿の吹き付け作業で高濃度の粉じんにさらされたために肺がんのリスクが高まったと判断。管轄の労働基準監督署は、Aが発症した肺がんを業務上疾病と認定した。
解説
労働者として石綿(アスベスト)ばく露作業に従事していた人が中皮腫や肺がんなどを発症し、それが業務上疾病と認められた場合には労災保険給付または特別遺族給付金(労災保険の遺族補償給付の請求権を時効により失った場合に請求可能。ただし請求できるのは令和14年3月27日まで)が支給される。
石綿との関連が明らかな疾病として石綿肺、中皮腫、肺がん、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚の5つが挙げられ、厚労省はそれぞれの…
執筆:一般社団法人SRアップ21 宮城会
社会保険労務士事務所たすく 代表 中島 文之
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