【裁判例が語る安全衛生最新事情】第454回 総合研究所内定者アルバイト自殺事件 精神的支援認め配慮義務違反否定 東京地裁令和4年3月28日判決
Ⅰ 事件の概要
亡Aは、私立大学の4年次に在籍しており、Y社に平成27年6月20日に採用の内定を受けていたが、同年11月14日に自殺した。原告X1は亡Aの父、X2はその母である。
Y社は、企業経営全般に関するコンサルティング業務を目的とする株式会社である。Y社は、採用内定者を対象とする「内定者アルバイト」という任意参加のアルバイト制度があり、亡Aもそれに応募して採用されてアルバイト業務を行っていた。
そのアルバイト業務は、入社1年目、2年目の先輩従業員の業務の補助であり、レポートを作成したり、調査したものを取りまとめたり、セミナー動画のファイルを整理したりするなど、週3、4日の断続的な勤務ができるものとしていた。
亡Aは、平成27年10月6日にY社とアルバイト契約を締結し、その当日、先輩である入社2年目のBの業務を手伝うこととしたが、その日のうちにその業務を終わらせることができずに、終わらせることができたのは10月9日の午後であった。
その10月9日に、Bから講演の動画をデスクトップに保存する業務を依頼されたが、その日のうちに終わらせることができず、しかし、亡Aがなかなか業務を完成させることができなかったことから、「このくらいはできるんじゃないの」といい、「別のメンバーに頼むからもう良い。時間だから」などといって業務を引き取った。
Xは、次の出勤日である10月13日、16日の2日間、Y社に無断で欠勤した。そして、Xは、Bから他のメンバーに頼むからもう良いといわれ、解雇だと勘違いしてショックを受けたと述べた。
10月19日にはアルバイトを再開したが、再び11月13日にY社に無断で欠勤し、11月14日に自宅で自殺した。X1らは、被告Y社に対して、亡Aが自殺したのはY社が内定者のアルバイトに対する対応が安全配慮義務に違反したからであるとして損害賠償請求訴訟を提起した。
Ⅱ 判決の要旨
1、原告Xの主張
Xの安全配慮義務に関する主張は、Y社は内定者アルバイトの参加者に対し、①アルバイト業務の開始に先立って参加者の基礎的能力の確認・研修を行い、②参加者の心理状態に配慮し、参加者の能力に応じた業務を割り振り、③業務を割り振った後も必要な援助を行い、④仮に参加者が業務を達成できなくても、そのことが公開されず、参加者が精神的に追い込まれないようにすべき配慮義務があったと主張する。
2、主張①について
①については、業務にはさまざまな基礎的能力が要求されるところ、…
執筆:弁護士 外井 浩志
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