【人工知能が拓く未来~人事労務分野への影響~】第2回 センサーによるデータ収集 職場環境改善へ貢献 ストレスチェックに応用も/青木 俊介
日常的にモニタリング
労働安全衛生法が改正され、昨年12月1日から従業員50人以上の事業所は従業員のストレスチェックが義務付けられた。ストレスチェック制度が設けられた背景には、メンタルヘルス不調の増加がある。1998年以降自殺者数は高止まりしており、精神障害による労災認定も急増しているなど深刻な状況であり、生産性にも大きな影響を与えている。調査によれば、メンタルヘルス不調者の多い会社では、会社全体の生産性や収益性も低下しているという。
ストレスチェックはアンケート形式での実施となるが、人によるばらつきが大きい、客観性がない、時間変化が分からないなどの問題がある。また、メンタルヘルス不調は予防が重要であり、日常的なモニタリングの仕組みがあるのが望ましい。
日立製作所の矢野和男氏を中心とした研究グループでは、「ハピネスメーター」という名刺大の着用タイプのセンサーを開発し、従業員の幸福感「ハピネス」を計測することに成功している。計測には加速度センサーを用いており、1秒間に50回の頻度で体の三次元の動きと向きを計測している。これに加え、個人ごとに幸福感についてのアンケートを行い、センサーデータと比較している。この際、アンケートの結果をそのまま数値化すると回答のぶれがあり信頼性が低いため、組織ごとの平均値に着目し、組織全体のセンサーデータというビッグデータから相関性の高い要因を探索した。明らかになったのは、意外にも「幸せな人の身体はよく動く」という事実であったという。
実験としては、ここでもコールセンターが題材に取り上げられている。業務の生産性を受注率で計測、215人の被験者に29日間センサーを装着して行った。この結果、業績の変動は出勤している従業員のスキルとは全く相関がなく、従業員のハピネス度と相関しており、ハピネス度が平均より高い日には受注率が34%も向上することが分かってきた。そしてこのハピネス度を決めていたのは、休憩時間中の従業員の身体運動の活発度であった。具体的には、従業員全体で休憩中の雑談が弾んでいる日はハピネス度が高く、受注率も高いということである。