【人工知能が拓く未来~人事労務分野への影響~】第5回 人の経験や暗黙知の活用 不正行為発見に貢献 “教師データ”から学習し/武田 秀樹
課題に応じてAI開発
連日、人工知能にまつわるニュースがテレビや新聞、雑誌を賑わしている。筆者がCTOを務めているUBIC(ユービック)にも、企業や団体から人工知能の活用について多くの問合せをいただいているが、その姿勢は大別すると2つに分けられる。
1つは、人工知能をまるで「魔法の杖」のように考え、人工知能を使えば問題の解決方法を提示してくれると考えたり、「ウチでも人工知能を何かに使えないか」と問い合わせたりするものと、もう1つは、具体的な課題に日常から取り組み、様ざまな手段を試みたうえで、ある部分を人工知能で代替できないか、というものである。
その後にどちらが人工知能をうまく導入し、効果的に使えるようになるかは、いうまでもなく後者である。人工知能だけでなく、ビッグデータやクラウド、IoT、ロボットなど、流行りの技術やソリューションが生まれているが、「何でもできる」といった過度の期待や思考停止に陥らないよう、できることとできないことを見極める視点が常に重要となる。
さて、UBICは現在、「KIBIT」(キビット)という人工知能によって、様ざまな分野の課題を解決しているが、元々は人工知能でビジネスをするために作られた会社ではない。あるニーズ、ある課題を解決するために最善の方法を模索しながら、自力で人工知能エンジンを開発したという、テクノロジー系企業には珍しい経緯をたどっている。どんな課題とニーズがあったか――それは国際訴訟や不正調査において、膨大なテキストを人間が1つずつ読むという労力を減らしながら、期限内に訴訟を有利に終わらせることや、いち早く不正の証拠を発見することである。
訴訟というと大量のダンボールに紙の書類が詰められ、運び出されるイメージがあるが、IT化の進んだ現在では、調査の対象の多くはパソコンやサーバーに記録されたデジタルデータである。