【人工知能が拓く未来~人事労務分野への影響~】第5回 人の経験や暗黙知の活用 不正行為発見に貢献 “教師データ”から学習し/武田 秀樹
別掲の例をみてほしい。日本企業がアメリカの司法当局から価格カルテルで莫大な課徴金を課せられる例がある。カルテルのような不正行為は「競合企業の関係者が個別に会うこと」から始まることが多くみられ、弁護士が不正を探す際に「飲み」という言葉を重要なキーワードとして、対象となる部署のメールを探すことが実際に行われている。
この例では、左のメールは、人工知能が「問題なし」と判断したもので、右のメールは「不正の可能性がある」と判断したものである。一見するとどちらも同じような「飲み」の誘いにみえるが、人工知能は両者の違いを見分けることができる。
もし、人間が「飲み」というキーワード検索で探した場合、左のような「問題のない」日常のメールが大量にヒットしてしまい、確認するには大きな手間がかかってしまう。
一方、人工知能を用いる場合、企業から依頼を受けた弁護士が「過去に不正が行われた時のメール」や経験や暗黙知に基づいて「あやしいと感じるメール」を“教師データ”としてあらかじめ学習させておく。
解析を行うと、人工知能は学習させたメールから感じられる文脈と同じような雰囲気を持つメールを“怪しい順番”で点数化することができる。企業で不正の監査を行う人間は、点数が高い順番に確認を行えば、より早く不正の可能性があるメールにたどり着ける。なお上記の例では、不正を示唆するメールから、複数の関係者が定期的かつ秘匿性が高い場所で会おうとしている雰囲気を人工知能が読み取り、高い点数を付けている。