【社労士が教える労災認定の境界線】第224回 振動工具を使用し続けて振動障害を発症
レイノー現象とは、全身が寒冷にさらされ、冷感を覚えたときに、手指血管の痙攣縮発作により、手指が発作的に蒼白となる現象をいい、振動障害に最も特徴的な症状とされる。すなわち、白ろう病は典型的な振動障害として、その発現が確認されれば、そのことのみで労災認定される。しかし、白ろう病によるレイノー現象の特徴は全身が冷えた時に突然指が真っ白になる状態で出現し、数分で消えてしまう。カラー写真で第三者の確認すら困難である。診断そのものが非常に難しいという特徴を有している。認定基準は、白ろう病にまでは至っていなくても、手指、前腕などの末梢循環障害・末梢神経障害・手指、前腕などの骨、関節、筋肉、腱などの異常による運動機能障害のすべてが認められるか、またはそのいずれかが著明に認められれば労災認定に至るという意味である。
Aは47年もの相当長期間にわたり振動業務に従事していたことは争いなく認められた。しかし、レイノー現象の発現が認められることまでは医師の診断と検査によってもはっきりと認定できなかった。
そこで、末梢循環障害・末梢神経障害・運動機能障害のすべてが認められるか、あるいはそのいずれかが、著明に認められるかどうかが争われた。特に本件では、末梢循環障害の有無について医師による見解が分かれた。この点、認定基準によれば、検査方法と評価方法が詳細に定められている。例えば検査の前提となる留意事項として、皮膚温、痛覚その他の検査にあたっては、外気ばく露の影響が残らないように、必ず検査前に室温20度から23度の室内において30分以上の安静時間をとることとされている。また、手指の皮膚温の測定については常温下の皮膚温が正常か否か、冷却負荷後の皮膚温が異常でないか、冷却負荷後の皮膚温回復率が正常か否かなどの測定方法をあらかじめ細かく決めている。爪圧迫については、1指ごとに検査し、軽くにぎった被検者の手の指ごとに爪を強く押さえ、離した後、爪の色が元に戻るまでの時間などを測定することで正常かどうかを判定する。
Aについての検査結果は、常温下の皮膚温が正常と異常の境界値、冷却負荷後の皮膚温が中等度異常、冷却負荷後の皮膚温回復率が少なくとも軽度異常、末梢循環障害の客観的な判定方法として国際的にも重視されている指動脈血圧測定が少なくとも異常の可能性のある境界値であることが判定できた。以上により、Aは抹消循環障害も認められるとされた。そして、長年にわたり振動業務に従事してきたAが振動障害を発症した場合であるから、これは業務に起因して発症したと事実上推定すべきであるとされ、業務起因性は肯定された。
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執筆:一般社団法人SRアップ21 東京会 社会保険労務士永井事務所 所長 永井 康幸