【事故防止 人の問題を考える】第33回 クレーン転倒事故とヒューマンエラー(前編)
能力を超える荷のつり上げが原因に
移動式クレーン転倒事故の実態をみてみましょう。
今回と次回では、建設会社が自ら作成したクレーン転倒事故報告書に基づき、2つの事例を紹介します。まず、鉄道の電気設備工事を得意とするA社の事例です。
事例1 積載型移動式クレーン転倒災害 1.災害発生状況 電車線ちょう架線新設のため、河川堤防上、延線ドラムをつり上げ作業中、つり上げ能力を超えて、積載型移動式クレーンの旋回を行ったため、バランスを崩し運転席側に横転し、操作していた作業責任者(操作者)と荷台上部にいた作業員2名が負傷した。 操作者は積載型移動式クレーン運転席と操作レバーの間に挟まれ、荷台にいた作業員Aは横転した反対側に飛び降り、作業員Bは堤防に投げ出され負傷した。 2.再発防止対策 ① 作業計画時、作業に応じたつり上げ能力が十分にある移動式クレーンを使用すること。 (資料:A社提供) |
事例1は、積載型移動式クレーン(通称:ユニック車)旋回時の転倒事故です。クレーン操作者と荷台上の2人の作業員が負傷した重大災害です。定格荷重を超えたものをつったことが事故原因です。再発防止対策は、①つり上げ能力が十分にある移動式クレーンを使用すること、②クレーン操作者はその能力を十分に把握し慎重に操作することが挙げられています。
ただ、つり上げ能力が十分にある移動式クレーンを使用することの的確な判断は、不確定要素が多い現場では難しい場合が少なくありません。
事故原因が、オペレーターが移動式クレーンの能力を把握していないことであれば、その対策にはオペレーターへの教育が真っ先に考えられますが、それだけではなく、なぜオペレーターがその能力を把握できないのか、その事情を慎重に探すことも重要です。
執筆:労働安全衛生総合研究所 リスク管理研究センター センター長 高木 元也