【元漫才師の芸能界交友録】第2回 常盤貴子 第2の“無実の罪”/角田 龍平

2019.07.04 【労働新聞】
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持ち上がる別撮り疑惑…
イラスト・むつきつとむ

 吾輩は面接官2である。名前はまだない。

 面接官2の唯一の台詞は「弁護士は信用が大事なので…」。この一言をいうために、今年2月のある夜、吾輩は京都駅から東京行きの新幹線に乗り込んだ。TBSテレビ日曜劇場「グッドワイフ」より出演のオファーがきたのは10日前のことだった。

 「グッドワイフ」は常盤貴子さん演じる蓮見杏子が、収賄罪で逮捕された東京地検特捜部長である夫の無実を晴らすべく、長らく休業していた弁護士に復帰し、事件解決に奔走する物語だ。復帰しようとした杏子は、いくつかの法律事務所の面接を受けるが、いずれも騒動の渦中にある夫の存在がネックとなり採用を断られる。断る側の一人が、吾輩演じる面接官2である。

 出演依頼の電話をしてきたのは、吾輩が出演していたTBSテレビ「サンデージャポン」のアシスタントディレクターだったSさんだ。今はドラマのディレクターをしているという。杏子を面接する弁護士役に本物の弁護士を起用する話が持ち上がり、一緒に仕事をしたことのある吾輩に白羽の矢が立ったらしい。

 吾輩が二つ返事で引き受けると、Sさんは「まだロケ現場が決まっていないんですが、角田さんの事務所を使わせていただけませんか?」と聞いてきた。「構いませんが、常盤貴子さんが京都まで来られるんですか?」。吾輩の問いはSさんにとって想定外だった。「えー! 角田さんは今、京都にいらっしゃるんですか…」。吾輩の事務所が東京だと思い込んでいたようだ。

 テレビ局でも不景気による経費削減が叫ばれて久しいのに、名もなき面接官2に京都・東京間の交通費を支払うのは、さしもの日曜劇場とて難しい。とはいえ、声をかけその気にさせながら引っ込めるのは失礼だ。Sさんの葛藤を言外に感じた吾輩は申し出た。「交通費は結構です。めったにこんな機会はありませんから」。

 はたして10日後、吾輩の前には常盤貴子その人が座っていた。いつか死期を迎えた吾輩の脳裏を過ぎる走馬灯の佳境の一つが、カメラの準備が整うまで常盤さんと二人スタンバイしていたあの数分であることは間違いない。初体験のドラマ出演で緊張を隠せないでいた吾輩に、大女優は微笑みながら話しかけてくれた。「弁護士バッジは本物ですか?」「裏には何が書いてあるんですか?」。そして、裁判の傍聴が趣味という常盤さんは裁判所で目にした個性的な裁判官や弁護士についても話してくれた。

 「よーい、スタート!」。カメラが回ると吾輩は履歴書に目を落とし、眉間に皺を寄せる小芝居をしてから顔を上げ、困惑した表情を浮かべる常盤さんに向けて申し訳なさそうに切り出した。「弁護士は信用が大事なので…」。

 2週間後の放送日。吾輩はSNSで「常盤貴子さんとドラマで共演する」と告知した。ところが、出演シーンが常盤さんの背中越しのカットだったため、放送を見たフォロワーから「共演していないじゃないか」と別撮り疑惑を指摘される羽目になる。無実の罪を着せられたのは杏子の夫だけではなかった。「弁護士は信用が大事なのに…」。

筆者:角田龍平の法律事務所 弁護士 角田 龍平

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令和元年7月8日第3216号7面 掲載
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