【人事学望見】第1224回 全額払い原則と借金相殺 自由意思で同意なら契約は成立
労基法24条では、賃金は通貨で、直接労働者にその全額を支払わなければならない、と賃金支払いの原則を定めている。退職金も賃金だが、会社から貸与した住宅ローンの返済に当たって退職金債権を担保にするケースは少なくない。全額払いとの関係はどうなるか。
認定判断は厳格かつ慎重
全額払いの原則と合意による退職金の相殺が争われたものに日新製鋼事件(最二小判平2・11・26)がある。
事件のあらまし
Aは、雇用されているY社に住宅購入に当たって、元利均等分割償還、退職した場合には、残債権一括償還の約定でY社等から借り入れを行った。その後Aは、いわゆるサラ金に多額の負債を負い、破産を申し立てる状態になったため、Y社に対し退職を申し出るとともに、Y社等からの借入金の残債務を退職金、給与等によって返済する手続きを執るよう依頼し、Y社はこれを了承した。
ところが、Y社には、退職金、給与等から一括返済に要する金額を控除して返済に充てる旨を定めた労使協定は締結されておらず、個別同意を得て返済手続きもY社に一任させる取扱いがあったため退職届を受理するとともに、本件についてもAから委任状の提出を受けた。
その後、Aは破産宣告を受け、破産管財人に選任されたBが、委任状等によるAの意思表示は、退職せざるを得ない状況下のものであり完全な自由意思に基づくものではなく全額払い原則に違反する、仮に完全に自由な意思に基づくものであったとしても、他の破産債権者を害することを知っていたので否認するという理由等で、Y社に対し退職金、給与の全額約440万円等の支払いを求めた。…
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