【元漫才師の芸能界交友録】第27回 スーパー・ササダンゴ・マシン④ 神秘性欠くマスクマン/角田 龍平
2016年8月某日。原宿駅近くの公開スタジオからWEB配信される番組で、私はササダンゴ・マシンの法律相談に乗っていた。プロレス雑誌のインタビューで、あるレスラーの発した一言が気になり、夜も眠れないという。彼の顔には、はっきりと困惑の色が浮かんでいた…かどうか分からない。目と口が外からみえないメッシュ生地で覆われているため、マスクの中の表情をうかがい知ることができないのだ。
新日本プロレスが金曜夜8時に放送されていた1984年夏。正体不明の謎のマスクマンが突如リングに姿を現した。目が吊り上がっているので怒っているようにみえるが、口角は上がっているので笑っているようにもみえる。そんな不気味な仮面を被ったストロング・マシンは、次第に増殖。「マシン軍団」として新日本のマットを席捲する。
それから、十数年後。総合格闘技「PRIDE」のリングで、グレイシー柔術のホイス・グレイシーと雌雄を決することになった桜庭和志は、セコンドと共にストロング・マシンのマスクを着用して東京ドームの花道に姿をみせた。プロレスならではの存在であるマシン軍団に扮して入場することで、ジャンルを背負う覚悟を体現した桜庭は、ホイスと激闘を繰り広げた末、勝利を収める。
さらに、十数年後。新潟プロレスのリングで、ササダンゴ・マシンはデビューした。地元の名産品にちなんだリングネームを名乗っていたが、マスクのデザインはストロング・マシンと瓜二つだった。
2016年8月に発売された『G SPIRITS』40号のインタビューで、本家ストロング・マシンは、彼にオマージュを捧げたふたりのレスラーについてこう評した。「桜庭選手が総合のリングにマシンのマスクを被って入場した時にも、『やってくれたな!』という嬉しさみたいなのがありましたよ。俺を認めてくれているというか。ただ、ササダンゴ・マシンはダメです(苦笑)」。
本家からダメ出しされたササダンゴ・マシンは、マスクの著作権ないし意匠権の侵害を理由に訴えられる最悪の事態を想定して、私に法律相談を持ち掛けてきたのだった。
かつて、興奮した藤波辰巳に「お前、平田だろ!」とマスクマンにとって最も秘匿すべき個人情報をリング上でうっかり暴露された時、烈火のごとく怒った平田、もといストロング・マシンのことだ。多くのマスクマンが長年守ってきた神秘性を著しく毀損しているササダンゴ・マシンを許せないのだろう。確かに、ササダンゴ・マシンのマスクマンにあるまじき露出癖は、目に余るものがある。司会を務める新潟総合テレビ『八千代ライブ』では、マスクを捲り上げ、素顔を露わにして試食をする姿が散見される。
「ダメ出しされたのは知的財産権を侵害したからではなく、マスクマンとしての矜持が欠如しているから」。私の苦言を、ササダンゴ・マシンは神妙な面持ちで聞いていた…かどうか分からない。
翌年の大晦日。ササダンゴ・マシンはマスクマンの矜持を取り戻すべく、朝青龍との他流試合に臨むことになる。
筆者:角田龍平の法律事務所 弁護士 角田 龍平