【元漫才師の芸能界交友録】第28回 スーパー・ササダンゴ・マシン⑤ 朝青龍を相手に大善戦/角田 龍平

2020.02.06 【労働新聞】
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懸命に足を取ろうとしたが…
イラスト・むつきつとむ

 2017年10月某日。秋晴れの日曜日に新潟から上洛した「スーパー・ササダンゴ・マシンの中の人」マッスル坂井さんと、平安神宮に程近い京都市動物園で待ち合わせた。お互い家族を引き連れ、何だか素敵なパパ友のようだ。寝てばかりいるライオンの檻の前で、初対面のカミさん同士が和やかに挨拶を交わしている。私はその年の春に生まれた娘が乗るベビーカーを押しながら、坂井さんの息子に満面の笑みで話し掛けた。絵に描いたような幸せな光景を切り裂いたのは、小学1年生の予期せぬ返答だった。

 「悪徳弁護士、金返せ」。無垢な瞳でそういわれ、たじろぐ私を少年の父親は嬉しそうにみていた。私は坂井さんが予定調和を嫌う掟破りの男だということを失念していた。

 プロレスのマイクアピールは、「ぶっ潰してやる」「首を掻っ切ってやる」など不穏で煽情的な言葉を用いるのが定番だ。ところが、ササダンゴ・マシンの「煽りパワポ」はパワポを使って、対戦相手の攻略法を平穏かつ論理的にプレゼンする。家族連れで賑わい平穏な時が流れる日曜日の動物園では、あえて7歳の子供に不穏な言葉をいわせるのがマッスル坂井なのだ。

 ササダンゴ・マシンが煽りパワポで、「新潟市東区の金型工場『坂井精機』の専務取締役で二児の父」と自己紹介するのも、「正体不明のマスクマン」という覆面レスラーの既成概念へのアンチテーゼに他ならない。

 16年春に出版された『お笑いラジオの時間』では、爆笑問題やオードリーというAMラジオの横綱が紙面を飾るなか、坂井さんはラジオ界の番付を無視したコラムを書いた。細々と配信していた私のポッドキャストを取り上げ、「文化人枠最強の話し手」と紹介してくれたのだ。このコラムをきっかけに私たちの交流が始まる。

 坂井さん一家が京都を訪れてから2カ月が過ぎ、盆地特有の底冷えする季節がやって来た頃。スーパー・ササダンゴ・マシンがAbemaTVの大晦日スペシャル企画『朝青龍を押し出したら1000万円』で朝青龍に挑むことが発表された。

 そして、迎えた大晦日。ササダンゴ・マシンは煽りパワポで観客と朝青龍を散々笑わせてから土俵に上がった。大横綱と覆面レスラーの異色の取組は、初っ切りのようなコミカルな展開を予想していた観客を見事に裏切り、一分半を超える大相撲となる。最後は上手投げで敗れたものの、マスクを剥がされ素顔を晒しながら懸命に朝青龍の足を取りにいこうとする坂井さんに胸が熱くなった。

 その夜、私は大阪のMBSラジオの年越し特番『ニューラジオスター大集合2018』でトップバッターを担当することになっていた。坂井さんの激闘に感化され、「『文化人枠最強の話し手』であることを証明してやる」と鼻息荒く、MBSに乗り込んだ。生放送が始まっても興奮冷めやらぬ私は、共演した女性アナウンサーを置いてきぼりで捲し立てるように喋り続けた。

 あの大晦日以降、MBSから出演依頼はない。どうやら私はとんだ独り相撲を演じてしまったようだ。

筆者:角田龍平の法律事務所 弁護士 角田 龍平

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令和2年2月10日第3244号7面 掲載
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