【裁判例が語る安全衛生最新事情】第341回 岐阜県厚生農協事件 過労自殺で退勤催促に相殺認めず 岐阜地裁平成31年4月19日判決
Ⅰ 事件の概要
亡Aは、高校時代にライフル射撃競技を始めて高校総体で入賞(5位)、大学でもライフル競技に出場していたが、平成22年4月に大学卒業後に被告Y農業協同組合連合会に勤務し、平成24年に岐阜県で開催された国体のライフル射撃競技で優勝するなどの特殊な経歴を有する者である。原告X1、X2はその両親である。
亡Aは、その後もY連合会での勤務を継続し、平成25年4月に厚生病院に配属されて管理課に勤務になった。管理課での業務は、病院施設の修繕管理、機械備品などの購入・維持管理・修繕、消耗品の購入・払出し、廃棄物関係の全般的な管理、注射針などの診療に必要な医療材料の購入などの業務を行っていた。
ところで、亡Aは、エアライフル、スモールポアライフルにつき銃刀法の所持許可の更新手続きを怠り、平成24年11月以降ライフルの射撃練習もできなくなり、その結果、平成25年の東京国体予選会で予選落ちしていた。他方で、平成25年10月以降は病院の管理課の業務も次第に負担が重くなった。そして、平成25年12月26日、高速道路のパーキングエリアに駐車した車内での自殺を図り、一酸化炭素中毒により死亡した。
なお、亡Aの時間外の勤務時間は、死亡前1カ月が107時間29分、死亡前2カ月が118時間38分とされた。
亡Aの両親であるX1、X2が労災請求をして認められた。そのうえで、X1らはY連合会に対して安全配慮義務違反があったとして損害賠償請求をした。
Ⅱ 判決の要旨
1、被告Y連合会の債務不履行責任
Y連合会は、その雇用する労働者に対し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負っており、…
執筆:弁護士 外井 浩志
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