【人事学望見】第1237回 退職願撤回めぐる争い 十分な知識要する採用とは違う
現代っ子ならではといえばそれまでだが、メールで「退職願」を送り、それっきりという事案が少なくないそうだ。就職は人生の一大事ということと表裏をなす「退職願」を出したものの、考え直して撤回を申し出た裁判例をみると、本人が考えるほど簡単ではない。
人事部長に 単独でも権限
労働者の退職の意思表示の有効性は、退職願を受領した役職者次第であるという珍しい事案が大隈鉄工所事件(最三小判昭62・9・18)である。
事件のあらまし
大学卒業後Yに入社したAは、同期入社のBと共に民青活動を行っていたところ、Bが会社の寮に戻らず行方不明になってしまった。Aは、人事担当者からBの失踪に関する事情調査を受けたが心当たりがなく民青活動に関することも伏せたままにした。
人事部長Xは、Aを呼んで民青活動の資料を見せて「Bの手がかりはないか」と問うたところ資料に手を触れないまま茫然自失状態に陥り、「退職します」と申し出た。Xは、民青同盟員であることを理由に退職する必要はない旨告げ、遺留したが聞き入れないため退職願の用紙をAに交付した。その場で必要事項を記入し署名押印したうえXに提出し、Xはこれを受領した。翌朝Aは退職願を撤回する旨申し出たが、会社は拒絶した。
そこでAは退職願の提出は違法な解雇に当たるか、無効な合意解約であるなどと主張して従業員としての地位があることの確認を求めて争った。
一審名古屋地裁は、退職意思表示は同人の錯誤により無効としてAの請求を認容。原審(名古屋高裁)はXの退職願受理をもってAの解約申込みに対する意思表示があったとは解されずAの解約申込みは有効に撤回されたとして、Yの控訴を棄却した(Yが上告)。…
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