【裁判例が語る安全衛生最新事情】第343回 三栄製薬事件 ADHD社員のパワハラ訴え認めず 東京地裁平成30年3月19日判決
Ⅰ 事件の概要
原告Xは、平成27年6月に、被告Y社に雇用され、上司はB専務であり、Xは伝票入力や注文処理などの事務を担当していた。Y社は医薬品の製造販売を行う会社である。Xは、担当業務について単純な過誤を繰り返して行っていた。
原告Xは、平成27年9月に病院を受診したところ、ADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断され、以後、通院を継続し服薬を続けていた。Xは、Y社へ病気のことを告知し、Y社はXが起票した伝票を他の従業員がチェックするダブルチェック体制を敷いた。
XとY社は平成28年9月9日に、同年10月末日をもってY社を退職することにつき合意し、Xの行っていた業務を同年7月にY社に入社した従業員Aが引き継ぐことになった。そして、XとY社は退職日を早めて10月20日とすることに合意した。
ところが、同年9月29日に、XとAは、プリンターのインクカートリッジの交換方法の引き継ぎを巡って、激しい口論になり、Xは仕事ができる状態ではなくなったため、終業時刻まで会議室で過ごした後、B専務と今後の引き継ぎなどについて話し合ったが、Xはもう無理と述べて、Aに対する引継業務を行うことができない旨を述べた。そして翌日、Xは出社せず、Y社は、平成28年9月30日付自己都合退職という扱いにした。10月5日に、XはB専務などと話し合いをするために出勤し、10月20日付の退職申出を撤回して仕事を続けたいと述べたが、B専務は、復帰しても行わせる業務はなく、9月30日付で退職扱いになっていると告げて、Xの申入れを断った。
Xは、Y社在職中にパワハラを受けて、それにより精神的苦痛を受けたとして損害賠償請求を行うとともに、本件退職は無効であるとして労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた。
Ⅱ 判決の要旨
1、パワハラの有無
Xは、…
執筆:弁護士 外井 浩志
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