【元漫才師の芸能界交友録】第41回 井上章一④ “プ爺”の邪推は続く/角田 龍平

2020.05.14 【労働新聞】
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岡村先生とイベントを開く
イラスト・むつきつとむ

 まだ「三密」という言葉が本来の仏教用語の意味しか有していなかった頃の話である。土曜日の昼下がりから、酒場が居並ぶ京都の木屋町通り沿いにある雑居ビルの非常階段を上るのは、些か後ろめたかった。3階に着いた私は、〈第68回プロレス文化研究会「邪推派プロレス宣言2020」 井上章一(国際日本文化研究センター教授)「言葉とプロレス」〉と書いた張り紙をしたバーの扉を開けた。

 店内に雑然と積み上げられたビンテージレコードに囲まれて、これまた年季の入ったプロレスマニアが手控えに何やら書き込んでいる。アウトプットするあてのない知識を熱心にメモするモチベーションが知りたかった。彼らの視線の先には、「1981年のラッシャー木村」について熱弁をふるう井上先生がいた。

 「ラッシャー木村は新日本プロレスのマットに上がったとき、アントニオ猪木を前にして『こんばんは』と挨拶して失笑を買いました。『猪木の延髄斬りはおかしい』とでもアピールすれば、商品価値は上がったでしょうに」。所属していた国際プロレスが倒産する憂き目にあい、新日本に参戦した木村は猪木の敵役だった。

 木村の「こんばんは」に匹敵する潮目が変わったひとこととして、井上先生は萩生田光一文部科学大臣の「身の丈」発言を俎上に載せた。2020年度から始まる大学入学共通テストで活用される予定だった英語の民間試験について、萩生田氏は「自分の身の丈に合わせて頑張ってもらえば」とテレビ番組で発言。戦後まもなく国会で「貧乏人は麦を食え」と発言した池田勇人大蔵大臣を彷彿とさせる格差社会を容認する失言に批判は高まり、今年度からの民間試験の活用は暗礁に乗り上げた。

 ところで、萩生田氏が撤回したのは「身の丈」発言が初めてではない。16年の秋の国会で与党の強行採決に対抗した野党の行動を当時官房副長官だった萩生田氏は「田舎のプロレス」と切り捨てた。〈強行採決なんてのは、世の中にあり得ない。審議が終わって、採決を強行的に邪魔をする人がいるだけ。あの(野党の)人たちが本当に声をからせて質問書を破りながら腹の底から怒っているかといったら、「田舎のプロレス」と言ったら怒られるが、ここでロープに投げたら返ってきて、空手チョップで一回倒れて、みたいなやりとりの中でやっている。ある意味、茶番だ〉(『朝日新聞』16年11月25日)。

 後に撤回することになる「田舎のプロレス」発言について、井上先生は「『茶番』とだけいえば済むものを、なぜわざわざ『プロレス』のたとえを持ち出したのか。当時の文科大臣は元プロレスラー馳浩です。馳はオレより先に文科大臣になりやがって、という気持ちがあったのでしょう」と邪推してみせた。 

 最近のプロレス会場には“プ女子”と呼ばれる女性ファンが詰めかけるようになった。しかし、プロレス文化研究会に“プ女子”が姿をみせることはない。会員の大半は、プロレスを半世紀みてきた“プ爺”だ。“プ爺”のオピニオンリーダーである井上先生の邪推は続く。

筆者:角田龍平の法律事務所 弁護士 角田 龍平

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令和2年5月18日第3257号7面 掲載
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