【裁判例が語る安全衛生最新事情】第345回 ケー・アイ・エス事件② 持病の腰痛悪化に企業責任認めず 東京高裁平成28年11月30日判決
Ⅰ 事件の概要
被告Y1会社は業務用スパイスを製造販売する会社であり、原告Xは、平成13年10月に、その八千代工場で微生物検査や書類作成の業務に従事しており、平成20年以降は品質管理部門の主任の地位にあった。平成20年1月ころからは、製造部門の作業員が昼休みを取っている間、1時間ほど同部門の殺菌工程の作業であるスパイス原料を殺菌機に投入する作業に従事していた。
Xは、平成20年7月25日に投入作業中に腰痛を発症したとし、平成23年1月21日から、腰痛が悪化して就労が困難であるとしてY社を休職したが、Y1社は、1年経過後に退職扱いをした。Xは、平成24年5月に変形性腰痛症で就労不能という診断が出されていた。Xは、労災の休業補償給付の請求をし、平成25年10月に支給決定をした。
Xは、Xの腰痛は業務上災害であり、休職期間満了退職は労働基準法19条に違反しているとして雇用契約上の地位の確認とともに、Y1社が腰痛予防の対策を採らなかったことを理由として安全配慮義務違反または不法行為責任を問うとともに、平成20年当時の八千代工場の製造部門の管理課の課長であるY2に対しても、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起した。一審判決(東京地裁平成28年6月16日判決)では、本件の腰痛は業務上災害として、休職期間満了による退職は無効とし、さらに、腰痛についての安全配慮義務違反または不法行為責任につき、生産課課長Y2の責任については棄却したものの、Y1社の責任を認めた。本件はその控訴審判決である。
Ⅱ 判決の要旨
1、Xの作業の態様
本件原料入りコンテナ容器の重量は、約230kgであり、その容器の下端部に両手をかけて持ち上げ、…
執筆:弁護士 外井 浩志
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